Apple Watchに血糖値測定機能を搭載する道が大きく開かれた。米連邦判事は、Appleが争っていたOmni MedSci Inc.の特許を無効とする判断を下した。これにより、Appleが長年研究を続けてきた非侵襲的血糖値モニタリング技術の開発が加速する可能性がある。

問題となったのは米国特許第10,517,484号であり、特許審判部(PTAB)は既存技術の観点から「自明」と判断。Appleの主張が認められ、同特許の請求がすべて無効とされた。この結果、Appleは法的な障壁を取り払うことに成功し、Apple Watchのヘルスケア機能をさらに強化できる可能性が高まった。

Appleの特許戦略と血糖値測定技術の開発競争

Appleは長年にわたり、ヘルスケア領域での技術革新を推進してきた。特にApple Watchの健康管理機能の拡充に向けて、数多くの特許を申請し、競争力を強化している。今回のOmni MedSciとの訴訟を通じて浮き彫りになったのは、血糖値測定技術をめぐる競争の熾烈さである。

Appleはこれまでに非侵襲的血糖値モニタリングに関連する複数の特許を出願しており、その技術は光学センサーを用いたものが中心とされる。一方で、血糖値測定市場にはGoogle、Samsung、Dexcomなどの企業も参入しており、それぞれが独自の手法を開発中である。

特にDexcomは、既に市場で確立された連続血糖モニタリング(CGM)デバイスを提供しており、Appleの技術が実用化された場合、競争構造が変化する可能性がある。特許戦略の観点から見ても、Appleは競争優位性を維持するため、特許の取得やライセンス交渉を積極的に進めている。

過去には血圧測定技術の特許取得も報じられており、ウェアラブルデバイスのヘルスケア機能を一層強化する狙いがあるとみられる。今回の判決を受け、Appleが今後どのように技術開発を加速させるかが注目される。

Omni MedSciの特許無効化が示す米国特許制度の課題

Omni MedSciが保有していた特許が「自明」と判断されたことは、特許審判部(PTAB)が近年厳格な基準を適用していることを示唆している。特許制度の本来の目的は技術革新の促進にあるが、一方で特許の乱発や不適切な権利主張が市場競争を阻害することも指摘されている。

Omni MedSciの創業者であるMohammed Islam氏は、過去にも複数の企業を相手取り特許訴訟を起こしており、いわゆる「特許トロール」としての側面があると指摘されてきた。特許トロールとは、自社で製品を開発せずに特許権を行使し、企業からライセンス料を得るビジネスモデルを指す。こうした訴訟は、イノベーションの妨げになるという批判もある。

今回の判決は、技術的な独創性が求められる特許の本質を改めて問い直すものとなった。Appleにとっては技術開発の障害が一つ取り除かれた形だが、同様の訴訟は今後も続く可能性がある。特許制度の運用が、技術革新を促進するものとなるのか、それとも企業間の法廷闘争を助長するものとなるのか、そのバランスが問われている。

Apple Watchの医療分野での影響と市場の期待

Apple Watchが血糖値測定機能を搭載すれば、医療分野への影響は計り知れない。現在、糖尿病患者が血糖値を測定するには指先に針を刺して血液を採取する方式が一般的だが、非侵襲的な測定技術が確立されれば、患者の負担は大幅に軽減される。

市場調査会社によると、世界の糖尿病人口は増加傾向にあり、糖尿病関連の医療機器市場も拡大している。Appleがこの分野に本格参入すれば、既存の医療機器メーカーとの競争が激化することは避けられない。特にDexcomやAbbottといったCGM(持続血糖モニタリング)機器のメーカーは、Appleの技術が市場に与える影響を警戒しているとみられる。

また、Apple Watchが医療機器として認可を受けるかどうかも重要なポイントとなる。すでに心電図(ECG)機能については米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得しており、血糖値測定機能に関しても同様の手続きを進める可能性が高い。規制のハードルをクリアできれば、Apple Watchは医療機器としての価値をさらに高めることになる。

Appleのヘルスケア戦略は単なるウェアラブルデバイスの域を超え、予防医療や健康管理の新たなスタンダードを築く可能性を秘めている。今後の展開次第では、医療業界全体の構造に変化をもたらすことになるだろう。

Source:Patently Apple