人工知能(AI)技術の急速な発展に伴い、多くの企業がこの分野への投資を拡大している。長期投資の象徴ともいえるウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイも例外ではない。同社の公開株式ポートフォリオは2990億ドルに達しており、そのうち24%がAI関連の2社に集中している。
最大の投資先であるAppleは、AIを活用した「Apple Intelligence」を推進しながらも、中国市場の規制により成長に影響を受けている。一方、Amazonはクラウド部門AWSを通じて生成AIの分野で存在感を強め、AIスタートアップAnthropicへの投資も進める。
バフェットのAI戦略は、単なる短期的な利益追求ではなく、長期的な市場の変化を見据えたものだ。Apple株の売却を進める一方で、Amazonの成長を静観する姿勢は、今後のAI市場における投資動向を示唆している。
バフェットがApple株を売却する背景とは

Appleは長年にわたり、バークシャー・ハサウェイの最大の投資先であり続けてきた。しかし、ここ1年間で6億株以上が売却され、同社のポートフォリオに占める割合はかつての半分以下に縮小している。この決定の背景には、AI市場の変化だけでなく、Apple自体が直面する課題が影響している可能性がある。
まず、Appleの成長の要であるiPhone事業は、AIを活用した「Apple Intelligence」の導入により新たな戦略へと移行している。しかし、中国市場では政府規制の影響でこの技術を利用できず、販売面での障害となっている。実際、Appleの最新四半期決算では、全体の売上高が前年比4%増加したものの、中国市場の売上は11%減少している。この動向は、Appleのグローバル戦略において大きな影響を与える要因の一つとなる。
また、バフェットの投資哲学もこの売却に関係していると考えられる。彼はバリュー投資家として、企業の成長性だけでなく、適正な価格で株を保有することを重視する。Appleの株価は近年上昇を続けており、バークシャーのポートフォリオ全体に占める割合が過大になっていた可能性がある。こうした中で利益確定の目的も含め、Apple株の売却が進められたと考えられる。
Appleは引き続き強力なブランド力を持ち、ハードウェアとAIの統合を進める戦略を採用している。しかし、バフェットがApple株を売却する動きは、AI時代における投資戦略の変化を示唆しており、今後の市場動向を占う上で重要な指標となるだろう。
AmazonのAI戦略とバークシャーの投資判断
Appleとは対照的に、Amazonはバークシャー・ハサウェイのポートフォリオ内では比較的小規模な投資先にとどまっている。しかし、同社はAI分野における競争力を急速に強化しており、その動向は投資家にとって見逃せないポイントである。
AmazonのAI戦略の中核を担うのは、クラウド部門の「Amazon Web Services(AWS)」である。AWSは、独自の大規模言語モデル(LLM)を提供し、企業向けの生成AIサービスを拡充している。特に「Amazon Q」は、AIを活用した業務支援ツールとして注目されており、コード補助機能では80%の作業時間短縮という成果を生み出している。これに加え、AmazonはAIスタートアップAnthropicに40億ドルを投資し、高性能AI「Claude」の開発を支援している。
また、Amazonはeコマース事業においてもAIを活用し、商品の推薦アルゴリズムや顧客対応の最適化を進めている。広告部門では生成AIを活用したデータ分析を行い、ターゲティング精度の向上に寄与している。これにより、AmazonはAIを全面的に事業戦略の中心に据え、競争優位性を強化しつつある。
しかし、バークシャーのポートフォリオ内におけるAmazonの投資比率は1%未満と小規模である。これは、バフェットが同社の評価を慎重に見極めていることを示唆している。Amazonは成長企業であるものの、AI分野における収益の安定性や、市場競争の激化がリスク要因となる可能性もある。バフェットがこれまでAmazonへの投資を限定的にとどめているのは、AI市場の変動性を考慮した慎重な判断の表れともいえる。
バフェットの投資戦略とAI市場の今後
バフェットはAI分野への投資を加速させつつも、従来の投資哲学を維持している。AppleとAmazonという二大企業への投資は、その一端を示しているが、それぞれの投資方針には明確な違いがある。
Appleに関しては、成長の鈍化や中国市場の規制を考慮し、ポートフォリオ内の比率を調整している。一方で、AmazonのAI事業には一定の成長余地を見出しているものの、投資比率を抑えている。このアプローチは、AI市場の将来性を評価しつつも、長期的なリスク管理を重視していることを反映している。
今後、AI市場はさらなる発展を遂げることが予想される。特に、生成AIやクラウドコンピューティングの分野では、競争が激化し、企業の優位性が明確に分かれる可能性がある。バフェットが今後どのような投資判断を下すのかは、市場全体の方向性を占う上で重要な指標となるだろう。
バークシャー・ハサウェイの投資動向は、AI市場の成長性と企業戦略のバランスを見極める上で示唆に富むものである。バフェットの慎重な投資スタンスは、AI市場においても変わらず、その動向は今後の投資環境を左右する要因の一つとなるに違いない。
Source:The Motley Fool