2025年初頭、銀価格は12年間で最高値を更新し、1オンスあたり30.80ドルを超えた。前年からの強気トレンドを維持し、2月には34ドルを突破する場面も見られた。この上昇の背景には、米国とメキシコの貿易摩擦が潜在的な影響を及ぼしている。

メキシコは世界最大の銀生産国であり、米国市場への供給に重要な役割を果たしている。関税適用の不透明さや銀の輸送問題が市場に緊張をもたらし、価格変動を促している。特にロンドン市場と米国市場の価格差が拡大し、プレミアムが発生するなど、地政学的要因が影響を強めている。

一方で、銀の価格上昇は貿易摩擦だけでなく、長期的な市場動向にも支えられている。金価格の上昇が示唆する銀の成長余地や、ETF市場での取引動向も重要な要素だ。貿易政策の変化と市場の需給バランスが、今後の銀市場の方向性を決定づけるだろう。

銀市場を揺るがす米墨貿易摩擦の背景と影響

米国とメキシコの貿易摩擦が銀市場に与える影響は、単なる価格変動にとどまらない。メキシコは世界最大の銀生産国であり、米国の工業用途や投資需要を支える重要な供給源である。米国が関税政策を強化すれば、銀の流通に影響を及ぼし、国際市場にも波及する可能性がある。

特に、ロンドン市場と米国市場の価格差が拡大し、米国での銀価格がプレミアム付きで取引される現象が発生している。これは関税の不透明さが市場心理に影響を与え、米国向けの銀供給が制約されるとの懸念を反映している。さらに、欧州の倉庫から米国へと銀が移動している点も注目に値する。これは、貿易障壁が強化される前に供給を確保しようとする動きと考えられる。

こうした状況の中、銀の価格変動は短期的な市場の動きだけでなく、長期的な需給バランスにも大きく関わる。米国の工業用途における銀の需要は依然として高く、特に太陽光発電や電気自動車産業における使用量が増加している。したがって、貿易摩擦の行方によっては、供給網の再編が進み、銀の国際取引構造そのものに変化が生じる可能性がある。

金市場との比較から見える銀の上昇余地

銀市場の動向を理解する上で、金との比較は欠かせない。金は過去20年以上にわたり強気相場を維持し、直近では3,000ドル突破を視野に入れる状況にある。一方で、銀は2025年2月時点で33ドル以下にとどまり、2011年の最高値49.82ドルや1980年の50.36ドルには遠く及ばない。

この価格差には、いくつかの要因がある。金は世界各国の中央銀行が保有し、準備資産としての需要が高いため、市場における流動性が安定している。一方で、銀は中央銀行の備蓄がなく、産業用途の比重が高いため、景気変動や供給リスクに対する感応度が高い。また、銀は金に比べて重量あたりの価値が低く、輸送コストや保管コストの影響を受けやすいことも、市場の特性として挙げられる。

しかし、銀の上昇余地は依然として大きい。四半期ベースのチャートを見ると、金が1999年の安値253ドルから現在の水準まで長期的に上昇しているのに対し、銀は2020年3月の安値11.64ドルからの回復途上にある。特に、次の重要な価格帯として、2012年第1四半期の37.58ドルが意識されており、これを突破すれば2011年や1980年の高値を再び試す展開も考えられる。

金市場との比較からも、銀が過小評価されている可能性は否定できない。歴史的に見ると、金と銀の価格比率は変動を繰り返しており、現在の水準が本来のバランスと乖離している場合、銀の価格が相対的に上昇する展開が訪れるかもしれない。

銀ETF「SLV」が示す市場の投資動向

銀の価格動向を読み解く上で、ETF市場の動きは重要な指標となる。特に、iShares Silver Trust(SLV)は最も流動性の高い銀ETFであり、投資家の関心を反映する存在である。SLVは現物銀に裏付けられており、銀価格と連動するため、投資家にとって手軽に銀市場へアクセスできる手段となっている。

2025年初頭、銀価格が上昇する中でSLVの価格も連動し、2024年12月19日の29.145ドルから2025年2月14日には34.24ドルへと約17.48%上昇した。同期間中、SLVの価格は26.19ドルから30.27ドルへと15.6%の上昇を記録した。これは銀の現物市場が強気であることを示しており、ETF市場における投資家の買い意欲が高まっていることが分かる。

ただし、SLVにはいくつかの制約も存在する。まず、ETFは米国株式市場の取引時間に限定されるため、先物市場のように24時間リアルタイムで取引されるわけではない。そのため、市場が閉じている間に発生した高値や安値の影響を完全には反映できない。また、ETFは管理手数料が発生するため、長期保有のコストが現物銀に比べて高くなる点も考慮すべき要素である。

とはいえ、SLVの動向は銀市場のセンチメントを測る上で有効な指標となる。ETFの資金流入が増加すれば、銀市場のさらなる上昇を後押しする要因となり得る。特に、米国とメキシコの貿易摩擦が市場に与える影響を投資家がどう判断するかが、今後のETF市場にも反映されるだろう。

Source: Barchart