NVIDIAの最新GPU「RTX 50シリーズ」は、一般市場における供給不足が深刻であり、「ペーパー・ローンチ」との批判を受けている。これは、発表された製品が実際にはほとんど市場に出回らない現象を指し、20年以上前から続く業界の問題の一つだ。

この背景には、半導体製造における技術的な制約、高性能GPUの需要増加、そしてNVIDIA自体のビジネスモデルの変化がある。特に、AI向けのチップ需要が爆発的に増加している現在、ゲーム向けGPUの供給は優先度が下がりつつある。

今後、技術の高度化と企業間競争の激化により、「ペーパー・ローンチ」の頻度はさらに増加する可能性が高い。半導体不足の根本的な解決には長期間を要するため、一般消費者が最新GPUを入手することは今後ますます困難になると考えられる。

GPU業界における「ペーパー・ローンチ」の歴史とその要因

GPU市場における「ペーパー・ローンチ」の歴史は長い。2004年、ATI(現AMD)とNVIDIAの両社は、新製品を発表しながらも実際には市場にほとんど流通させなかったことで批判を受けた。当時、ATIのRadeon X800 XT Platinum EditionやNVIDIAのGeForce 6800 Ultraが話題となったが、発売後も在庫は極めて限定的であり、消費者の間で不満が高まった。

この問題の本質は、高性能GPUの製造プロセスにある。現在、NVIDIAのRTX 50シリーズはTSMCの5nmプロセスをベースにした「4NP」ノードで製造されているが、シリコンの歩留まり(製造されたチップのうち、正常に動作する割合)が低いため、十分な量を市場に供給できていない。過去にも歩留まりの低さが要因となり、予定された出荷数が確保できなかった事例は多い。

さらに、企業の戦略的な要因も関係している。GPUメーカーは、ライバルより先に市場で注目を集めるため、十分な在庫が確保できていない段階でも製品を発表することがある。この手法は消費者の期待を高める一方で、実際に購入できない状況を生み出し、不信感を招いてきた。特に近年はAI需要の拡大により、ハイエンドGPUの供給が逼迫しているため、ゲーム向けGPUの生産が後回しにされている可能性がある。

NVIDIAの戦略転換とAI市場への注力

NVIDIAの戦略が従来のゲーム向けGPU中心から、AI関連市場へと移行している点も「ペーパー・ローンチ」が頻発する要因の一つと考えられる。現在、同社の主力製品であるH100やA100は、データセンター向けに出荷されており、これらの製品は高額にもかかわらず企業からの引き合いが絶えない。例えば、H100は1枚あたり約25,000ドル(約370万円)で取引され、企業が数千枚単位で購入するケースも珍しくない。

こうした市場の変化により、NVIDIAはハイエンドGPUの生産能力をAI向け製品に優先的に振り向けている可能性がある。実際、社内向けの購入チャネルですらRTX 50シリーズが入手困難であるという報道もある。NVIDIAのエンジニアが「従業員向けストアですら供給不足のため販売が停止されている」と証言しており、社内でも不満の声が上がっている。

これまでNVIDIAは、ゲーマー向け市場を最優先としてきたが、AI市場の急成長に伴い、より収益性の高い分野へと経営資源をシフトしている可能性が高い。この結果、ゲーム向けGPUの供給が後回しになり、「ペーパー・ローンチ」のような形で市場に現れるケースが増えているのではないかと考えられる。

今後の展望とGPU市場の行方

この状況が今後改善するかどうかは、半導体業界全体の動向に大きく左右される。現在、TSMCやSamsungなどの主要ファウンドリは、先端プロセスの開発と生産能力の拡張に取り組んでいる。しかし、新しい製造技術の確立には時間がかかり、短期的な供給改善は期待しにくい。

また、半導体不足の要因には、COVID-19の影響、台湾の水不足、米中貿易摩擦などの地政学的リスクも絡んでいる。これらの問題が続く限り、ハイエンドGPUの供給が安定する可能性は低く、今後も「ペーパー・ローンチ」が常態化する懸念がある。

消費者にとっては、新製品を発表直後に手に入れることがますます困難になり、プレミア価格での転売が横行するリスクも高まる。結果として、高性能GPUを求めるユーザーは、数世代前のモデルを使い続けるか、他社製品へ移行するという選択を迫られる可能性がある。NVIDIAにとっても、こうした状況が続けば、ゲーム市場でのブランド価値を低下させる恐れがあるだろう。

Source:XDA