ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、長期的な視点で選び抜いた企業への投資で知られる。その中でも、アメリカン・エキスプレスとVisaは長年にわたりポートフォリオに組み込まれ、金融市場において重要な位置を占めている。
アメリカン・エキスプレスは1991年からの長期保有銘柄であり、その価値は大幅に上昇。一方、Visaは2011年から投資が始まり、売買を重ねながら現在も保有されている。両社の直近業績を比較すると、Visaは高い利益率と強固な株主還元を実現し、アメリカン・エキスプレスは安定した成長と配当の増額が魅力となる。
市場における評価を示すPER(株価収益率)は、Visaが22倍、アメリカン・エキスプレスが36倍と、アメリカン・エキスプレスの方が割高感がある。両社ともに優れた銘柄であるが、現時点での投資妙味を見極める上では、バリュエーションの違いが判断材料となる。
バークシャー・ハサウェイの投資スタンスとアメリカン・エキスプレスの強み
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バークシャー・ハサウェイがアメリカン・エキスプレスに投資を開始したのは1991年である。当時、同社のビジネスモデルは現在と大きく変わらず、自社でカード発行と決済を一括管理するクローズドループ方式を採用していた。この仕組みにより、アメリカン・エキスプレスは顧客データを独占的に活用し、高所得層をターゲットとしたプレミアムサービスを提供することで、競争優位性を確立している。
1995年までにバークシャーは同社の株式を買い増し、約13億ドルの投資額が現在では463億ドルにまで膨らんだ。バフェットが株主に向けた2023年の書簡で「素晴らしい企業を見つけたら、それを持ち続けることが重要」と述べたことは、この投資戦略を裏付けている。アメリカン・エキスプレスの強みは、ブランド力の高さとロイヤルティの強い顧客基盤にある。
一方で、同社の事業モデルには成長の限界も指摘される。Visaのようなオープンループネットワークと比べると、加盟店数が限定され、取引規模の拡大に制約が生じやすい。また、発行するカードの利用者層が富裕層に集中しているため、景気後退時の影響を受けやすい。バークシャーが長年保有を続けているのは、こうしたリスクを補うだけの強固な事業基盤があると判断しているからだろう。
Visaの高収益モデルとバークシャーの投資動向
Visaへの投資が始まったのは2011年であり、アメリカン・エキスプレスとは異なり、バークシャーは売買を繰り返している。この投資はバフェット自身ではなく、トッド・コームズとテッド・ウェシュラーが主導したものとされる。バークシャーは現在、Visaの株式を約830万株保有し、評価額は約29億ドルに達している。
Visaの最大の強みは、オープンループネットワークを活用した収益モデルにある。金融機関が発行するカードの決済処理を手掛け、取引ごとに手数料を徴収することで高い利益率を維持している。直近の決算では営業利益率が66%と極めて高く、アメリカン・エキスプレスの21.2%を大きく上回っている。こうした収益効率の高さは、投資家にとって重要なポイントとなる。
ただし、Visaの成長においてもリスク要因は存在する。競合であるマスターカードとの市場シェア争いや、フィンテック企業の台頭により、決済手数料の引き下げ圧力が高まる可能性がある。また、規制の影響も無視できず、特に欧州やアジア市場ではカード手数料に対する法的制約が強まっている。バークシャーがVisa株を売買している背景には、こうした市場環境の変化を柔軟に反映させる意図があると考えられる。
株主還元とバリュエーションの比較
両社とも株主還元を重視しており、配当の増額や自社株買いを積極的に実施している。アメリカン・エキスプレスは1989年から四半期ごとの配当を維持し、2025年には17%の増配を予定している。一方、Visaは16年連続で配当を増やしており、増配率は13%と堅調である。
自社株買いに関しては、アメリカン・エキスプレスが2024年に約59億ドルを投じ、発行済み株式の11%を買い戻す計画を立てている。Visaは過去12か月間で171億ドルを投資し、発行済み株式数を9.2%削減しており、より積極的な姿勢が見られる。こうした点から、短期的な株主還元の面ではVisaが優位に立っているといえる。
バリュエーション面では、アメリカン・エキスプレスのPERが36倍、Visaが22倍と、アメリカン・エキスプレスの方が割高に見える。通常、利益率が高い企業は市場からより高い評価を受けるが、現在の状況は逆である。これは、アメリカン・エキスプレスの成長期待が高まっている一方で、Visaの収益性がすでに確立されていることが背景にあると考えられる。
結論として、長期的な安定性を求めるならアメリカン・エキスプレス、一方で高い収益性と積極的な株主還元を重視するならVisaが魅力的といえる。バークシャーの投資判断は、これらの要素を総合的に評価した結果であり、どちらの銘柄もポートフォリオに組み込む価値があることを示している。
Source:The Motley Fool