ナイキ(NKE)の株価は3年連続で低迷し、ピーク時の半値以下で取引されている。S&P 500が上昇を続ける中での低迷は、市場全体の影響ではなく、ナイキ固有の問題が要因である。

最大の要因は、コロナ禍における戦略変更だ。卸売販売を縮小し、自社チャネルを強化したが、競争環境の変化によりシェアを奪われた。中国市場では地場ブランドが台頭し、米国ではニューバランスやホカなどの新興勢力が急成長している。

ナイキは再建策としてCEO交代や卸売戦略の見直し、新商品の投入を進めるが、短期的な業績回復は不透明である。Citiは目標株価を大幅に引き下げたが、著名投資家ビル・アックマン氏は買い増しを継続。長期投資の観点からは割安とも考えられ、今が買い時かどうかが問われる局面だ。

ナイキの低迷が示す市場環境の変化

ナイキが苦境に陥った背景には、消費者行動の変化と競争環境の激化がある。コロナ禍を経て、同社は卸売を縮小し直販モデルを強化したが、これが思わぬ逆風を生んだ。消費者は実店舗での購入を再開し、小売パートナーとの関係を重視するブランドが市場シェアを拡大した。

特に北米市場では、ニューバランスやホカ、オン・ランニングといったブランドが急成長している。これらのブランドは独自のテクノロジーとマーケティング戦略で若年層の支持を集め、ナイキの販売低迷に拍車をかけた。また、中国市場ではアンタやリーニンなどのローカルブランドがシェアを奪い、ナイキの成長鈍化に直結している。

さらに、関税政策がナイキのコスト増要因となっている。トランプ政権時代の関税措置に加え、今後の動向次第では追加関税が課される可能性もある。こうした外部環境の変化により、ナイキの事業モデルが従来の優位性を維持することが難しくなっている。

再建戦略の成否を分ける要素とは

ナイキは経営トップの交代を機に再建策を進めている。元CEOのエリオット・ヒルが復帰し、「スポーツを軸とした戦略回帰」を掲げた。これは、近年のブランド戦略が本来のナイキの強みであるアスリート起点のアプローチから逸脱していたという認識に基づく。

また、卸売パートナーとの関係修復も重要な施策だ。ナイキは過去に卸売販売を縮小し、自社ECを強化したが、結果として大手スポーツ小売業者との関係が悪化した。現在、ディックス・スポーティング・グッズ、JDスポーツ、フットロッカーなどと再び協力体制を築こうとしており、これが業績回復のカギを握る。

さらに、新商品の投入も重要な要素である。最近では、キム・カーダシアンのSKIMSとのコラボレーションによる「NikeSKIMS」ラインを発表し、女性向け市場を強化する動きを見せた。しかし、単発のコラボでは持続的な成長にはつながりにくく、継続的なイノベーションが求められる。

株価の行方 長期的視点が求められる局面

市場では、ナイキの株価動向について意見が分かれている。Citiは最近、ナイキ株の格付けを「買い」から「中立」に引き下げ、目標株価を102ドルから72ドルへ大幅に修正した。この背景には、2026年度の業績回復の不透明感がある。アナリストのポール・ルジュズ氏は「業績予測が過大であり、再建のタイミングが見通せない」と指摘している。

一方、著名投資家ビル・アックマン氏はナイキ株を積極的に買い増している。彼の投資スタイルは長期志向であり、ナイキのブランド力と市場での影響力が依然として高いことを評価している可能性がある。短期的には業績低迷のリスクがあるものの、長期的な回復を見越した投資判断と考えられる。

現時点でのナイキ株は、短期的な下落リスクがあるものの、長期的にはブランド価値と市場支配力の回復が期待される。ただし、成長を実現するには、卸売販売の回復、新商品の競争力強化、スポーツブランドとしてのポジション再確立が不可欠となる。

Source:Barchart.com