OpenAIは、現行の複雑な企業構造を解消し、持続的な事業成長を確保するため、公益法人(PBC)への移行を計画している。デラウェア州でのPBC化を進めることで、敵対的買収のリスクを抑え、資金調達の柔軟性を高める狙いがあると見られる。
PBCとは、利益の最大化だけでなく、社会的公益や事業の影響を受ける関係者の利益も考慮する法人形態であり、営利企業と非営利法人の中間に位置する。デラウェア州の企業法では、PBCは「レブロン・ドクトリン」の適用外とされる可能性があり、OpenAIはこれを利用して事業の独立性を強化しようとしていると考えられる。
一方で、PBC化が確実に企業の透明性や社会的使命の遵守を保証するものではないとの指摘もある。株主契約や取締役会の意思決定がどのように機能するかが重要であり、OpenAIの今後の動向が注目される。
OpenAIのPBC化が持つ法的背景とデラウェア州の影響力

OpenAIが公益法人(PBC)への移行を計画するにあたり、デラウェア州の企業法が鍵を握る。この州は全米の企業法制において重要な位置を占めており、フォーチュン500企業の68.2%がデラウェア州に登記されている。デラウェア衡平法裁判所(Chancery Court)は、企業に有利な判決を多く下してきた歴史があり、企業経営者にとって魅力的な司法環境を提供している。
特に、敵対的買収に関する判例「レブロン・ドクトリン」は、PBC化の決断に影響を与えたと考えられる。レブロン・ドクトリンによれば、営利企業は敵対的買収が発生した際に、最も高額の買収提案を受け入れる義務がある。しかし、PBCの場合、社会的使命を重視するという企業目的が認められるため、この義務が適用される可能性は低いとされる。
ただし、デラウェア州でPBCが本当に敵対的買収を防ぐ手段となるのかは、依然として不透明である。レブロン・ドクトリンがPBCに適用されないという前例はまだ確立されておらず、今後の法的解釈次第では、OpenAIの意図とは異なる結果を招く可能性もある。このように、PBC化は単なる組織改革ではなく、法的リスクと企業の独立性確保を巡る戦略的な動きでもある。
OpenAIの資金調達戦略とPBC化の関係
OpenAIは2023年に60億ドルの資金を調達したが、12月のブログ記事で「想定以上の資金が必要になった」と明言している。同社の資金調達は、従来の非営利法人の枠組みでは制約が多く、投資家に対する利益分配の柔軟性が求められていた。この点で、PBCへの移行は資金調達手段を拡大する狙いがあると考えられる。
実際、The Economistによれば、OpenAIは投資家向けに「利益上限を20%ずつ増加させるルール」を導入したとされる。これにより、従来の非営利ホールディング会社を通じた制約を緩和し、新たな投資を呼び込みやすくする意図があると見られる。一方で、PBCとしての社会的責任と利益追求のバランスをどのように取るのかが課題となる。
さらに、Financial Timesは「PBC化はOpenAIにとって敵対的買収を防ぐ安全策にもなり得る」とする内部関係者の見解を報じている。資金調達を加速しつつ、敵対的買収から身を守るという二重の目的があると考えられる。しかし、投資家にとっては、利益の分配構造や経営の透明性が不明瞭になるリスクも存在し、これが今後の資金調達にどのような影響を及ぼすかは慎重に見極める必要がある。
PBC化に伴うガバナンス課題と透明性の懸念
OpenAIの企業構造はもともと複雑で、非営利法人を頂点に据えたホールディングス構造が存在する。Engadgetの調査によれば、OpenAI関連の企業はデラウェア州に少なくとも11社登録されており、その統治構造の透明性に疑問を持つ専門家も少なくない。
PBCの特徴として、企業の社会的使命を果たすことが求められるが、その基準が明確ではない点が課題となる。ペンシルベニア大学のジル・フィッシュ教授は、「PBCの二重目的は企業がどのようにバランスを取るかを具体的に定めていない」と指摘する。実際に、PBC化した企業の中には、利益優先の経営を続けた事例もあり、OpenAIがどの程度社会的使命を重視するかは不透明だ。
また、UCLAのマイケル・ドルフ教授は、「PBCの設立文書や株主契約がどのように定義されるかが鍵となる」と述べており、OpenAIが明確なガバナンス指針を示さなければ、透明性の欠如が新たな問題を生む可能性がある。特に、OpenAIは過去に組織内の意思決定を巡り混乱を招いた経緯があり、PBC化によって統治の明確化が進まなければ、社内外の信頼を損なう要因になりかねない。
Source:Engadget