ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが3,250億ドルという記録的な現金を蓄えている。投資の世界で「他人が恐れているときに貪欲であれ」と説くバフェットが、なぜここまで慎重な姿勢を見せるのか。その背景には、急騰する株式市場と伝統的なバリュー投資の機会減少がある。
実際にバフェットは、バンク・オブ・アメリカやシティグループなどの株を大幅に売却しつつも、一部の銘柄には新規投資を行っている。しかし、その動きは限定的であり、バークシャーが歴史的に高いキャッシュポジションを維持する理由を明確に示してはいない。
市場関係者の間では、この現金蓄積が「次なる市場調整への備え」ではないかとの見方が強まっている。過去にもドットコム・バブル崩壊前に巨額の現金を確保していたバフェットは、当時「投資の勘を失った」と批判されたが、直後の市場崩壊でその決断が正しかったことを証明した。2025年の年次書簡でバフェットは何を語るのか、投資家の関心が集まっている。
バークシャーが巨額の現金を保有する理由:投資機会の減少と市場環境の変化
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バークシャー・ハサウェイが3,250億ドルもの現金を保有する背景には、投資環境の変化がある。2024年9月時点で、同社の資産の大部分は米国債に投資されており、これはリスクの少ない選択肢として知られている。バフェットは長年にわたり「割安な資産を購入する」バリュー投資の信条を貫いてきたが、近年の株価上昇によりそのような機会が減少している。
実際、バークシャーは2024年第4四半期にも売却を継続し、シティグループの株式を73%削減するなど、ポートフォリオの整理を進めた。一方で、コンステレーション・ブランズやシリウスXMといった企業の株式を取得しているが、それらの投資額はバークシャーの現金全体に対して比較的少額である。このことからも、同社が依然として慎重な投資姿勢を維持していることが分かる。
市場関係者の中には、バフェットが巨額の現金を保持するのは次なる市場調整への備えではないかと推測する声がある。歴史を振り返ると、彼は2000年代初頭のドットコム・バブル崩壊前にも現金を積み上げていた。今回の状況も同様であると考えれば、バークシャーは次の市場低迷時に大規模な投資機会をうかがっている可能性がある。
「バフェット指標」が示す市場の過熱:次なる調整は近いのか
バフェットが投資の判断基準として重要視する指標の一つに「バフェット指標」がある。これは、米国株式市場全体の時価総額をGDPで割ることで市場の過熱感を測るものだ。現在、この指標はドットコム・バブル崩壊前の水準を超えており、市場全体が割高であることを示唆している。
このような環境下では、伝統的なバリュー投資の手法が機能しにくい。60年前に比べ、情報が瞬時に市場に反映される効率的な相場となったことで、明確に割安な銘柄を見つけることは難しくなった。特に、バークシャーのような巨額の資本を運用する企業にとって、小規模な割安株に投資することは非現実的であり、大規模な買収が求められる。しかし、現在の市場ではバークシャーの資本力に見合う適切な投資先が少ない。
バフェットが昨年の株主向け書簡で「市場の混乱に迅速に対応できるよう備えている」と述べたように、バークシャーは明確な投資機会が訪れるまで待機する構えを見せている。彼の慎重な姿勢は、短期的な利益を求めるのではなく、長期的な成功を見据えた判断の表れともいえる。
バフェットの市場観と今後の投資方針:年次書簡に込められるメッセージ
バフェットの年次書簡は、投資家にとって市場の方向性を探る重要な資料となる。彼が現金の積み上げについてどのような説明をするのかは、大きな注目を集めている。バークシャーが手元資金を増やしていることは、単なる市場環境の影響だけではなく、将来的な大型投資を視野に入れた戦略的な判断である可能性もある。
過去にもバフェットは、割高な市場環境では現金を保持し、適切なタイミングで大規模な投資を行う戦略をとってきた。たとえば、2008年の金融危機時には、ゴールドマン・サックスやゼネラル・エレクトリックに対して積極的な資金投入を行い、大きなリターンを得た。今回も同様に、市場が混乱し企業価値が適正水準に戻る局面を待っていると考えられる。
市場では、バフェットが「次の一手」をいつ打つのかに注目が集まる。彼の投資判断が市場に与える影響は計り知れず、特に年次書簡の内容は世界中の投資家にとって重要な指針となるだろう。
Source: Fortune