Intelの次世代プロセス「18A」が正式に準備完了と発表された。
Intelは自社のウェブサイトにて、次世代プロセス「18A」の準備が整ったことを公表した。しかし、これがPC業界に与える影響は一筋縄ではいかない。

Intel 18Aノードは、次世代ノートPC向けの「Panther Lake」およびデスクトップ向けの「Nova Lake」に採用される予定である。量産開始は2025年後半とされており、市場投入は2026年初頭と見られる。しかし、この発表には「4年間で5つのノード」というIntelの大胆な計画の行方についての疑問が伴う。

「5N4Y」計画の一環として、Intelは急速なプロセスノードの進化を目指していたが、20Aノードのキャンセルにより、実質的には「4年間で4つのノード」に修正された。今回の18A発表は、計画の進捗を示す重要なマイルストーンであると同時に、TSMCなどの競合との競争力を確保するための戦略的な動きとも考えられる。

Intel 18Aは「PowerVia」バックサイド・パワーデリバリー技術や「RibbonFET」ゲート・オール・アラウンド(GAA)技術を採用しており、性能向上を強く打ち出している。特に、電力効率と密度向上により、TSMCのN2ノードと競合する存在となる可能性がある。しかし、最終的な製品の実力が期待に応えるものとなるかは、今後の市場動向と技術検証による判断が必要だ。

Intel 18Aの技術的特長と競争力の鍵を握る革新技術

Intel 18Aノードの正式発表により、同社の半導体戦略の重要な節目が示された。特に、従来のプロセスノードと比較して、18Aがどのような技術革新を遂げたのかが焦点となる。まず、最大の特徴は「PowerVia」バックサイド・パワーデリバリー技術の導入である。従来のチップ設計では、電源と信号配線が同じ層に配置されており、信号の伝達効率や電力消費の最適化が課題であった。

PowerViaは電源配線をチップの裏側に移動させることで、信号配線の混雑を解消し、より高密度な回路設計を可能にする。これにより、IRドロップ(電源供給時の電圧降下)が減少し、エネルギー効率の向上が期待される。この技術は、TSMCが2026年以降のA16ノードでようやく導入するとされており、Intelが先行している点が注目される。

次に、Intelは「RibbonFET」ゲート・オール・アラウンド(GAA)技術を採用した。これはFinFETの進化版であり、トランジスタのゲート構造を360度に広げることで、電子の流れをより精密に制御する。結果として、リーク電流の低減や高密度な回路設計が可能になり、特にモバイルや高性能計算用途において優れたパフォーマンスを発揮するとされる。

さらに、Intel 18Aはワットあたりの性能をIntel 3と比較して最大15%向上させ、チップ密度も30%高める設計となっている。特にデータセンター向けのプロセッサ「Clearwater Forest」において、この技術の優位性が発揮されると見られる。

しかし、Clearwater Forestの市場投入が当初の2025年から2026年にずれ込んだことを考えると、Intel 18Aの量産段階における最適化が完全ではない可能性もある。Intel 18Aが競争力を維持する鍵となるのは、こうした技術革新が実際の製品でどこまで効果を発揮できるかにかかっている。

TSMCのN2ノードとの直接比較では、ロジック密度で劣る可能性があるが、PowerViaやRibbonFETの実用化が進めば、エネルギー効率や性能面で大きな優位性を持つことが期待される。

「4年間で5つのノード」計画の行方と修正された戦略

Intelの「4年間で5つのノード(5N4Y)」計画は、2021年にパット・ゲルシンガーCEOが発表したものだった。しかし、当初の予定と現実の間には乖離が生じている。当初の計画では、Intel 7(10nmプロセスの改良版)を皮切りに、Intel 4、Intel 3、Intel 20A、そしてIntel 18Aへと進化するはずだった。

しかし、Intel 20Aが実質的にキャンセルされたことで、実際には「4年間で4つのノード」という形に収束しつつある。加えて、「新ノード」とされたプロセスのうち、完全に新規といえるのはIntel 4とIntel 18Aのみであり、他は既存技術の改良版である点も考慮する必要がある。

この計画の最大の狙いは、TSMCやSamsungとの競争において、Intelが再び最先端の半導体製造技術を持つ企業としての地位を取り戻すことにあった。しかし、現実には各ノードの開発に時間がかかり、2025年までに完全な5ノード展開は実現しなかった。

それでも、Intelは18Aの準備完了を強調することで、計画の進行が遅れているわけではなく、むしろ戦略的な最適化が進んでいるという印象を市場に与えようとしている可能性がある。また、18Aの導入時期が2026年初頭とされる点も注目に値する。

これにより、「18A準備完了」が実際の市場投入とどのように結びつくのかについて、業界内で慎重な見方が広がっている。特に、PC市場やデータセンター向けチップの発表タイミングに影響が及ぶ可能性があり、Intelのファウンドリー事業としての展開にも波及する可能性がある。

Intelは「5N4Y」計画の進捗について公式なコメントを控えているが、技術の進化と市場投入スケジュールのギャップをどのように埋めるかが、今後の戦略の鍵となる。

Intel 18Aのファウンドリー事業への影響と業界の展望

Intel 18Aの正式発表は、同社のファウンドリー事業(Intel Foundry Services: IFS)にとっても大きな意味を持つ。従来、Intelは自社製品向けのプロセス開発に注力していたが、近年ではTSMCやSamsungと競争するため、外部企業向けの製造サービスにも本格的に参入している。

今回の発表で特に注目されるのは、Intelが「18Aは2025年前半にテープアウトを開始する顧客プロジェクト向けに準備が整った」と明言した点である。これは、自社製品よりもむしろ外部企業の顧客獲得を優先した戦略の転換を示唆するものであり、ファウンドリー事業の拡大に向けた布石と考えられる。

TSMCが現在も半導体業界のトップファウンドリーとして君臨する中、Intelがどこまで市場を奪えるかは未知数である。特に、AppleやNVIDIA、AMDなどの主要企業が依然としてTSMCに依存している状況を考えると、Intelがこれらの企業を顧客として取り込むには、技術的な信頼性だけでなく、供給体制やコスト競争力の強化が不可欠となる。

また、Intel 18Aが北米で製造されることも戦略的な意味を持つ。米国政府は、半導体の国産化を推進するために補助金を提供しており、Intelはこの流れを活用することで、政府機関や軍需関連の受注を狙う可能性がある。一方で、TSMCはアリゾナ工場の拡張を進めており、Samsungも米国での生産強化を図っているため、競争はさらに激化すると見られる。

Intel 18Aの技術的な優位性がどこまで市場で評価されるかは、最終的には量産時の歩留まりやコストに依存する。IntelがTSMCやSamsungと並ぶファウンドリー企業として確固たる地位を築けるかどうかは、今後数年間の市場の動き次第といえる。

Source:PC Gamer