ワーレン・バフェットが長年信頼を寄せた経営者、フォレスト・リバーの元CEOピート・リーグルは、2024年11月に80歳でこの世を去った。彼が率いたフォレスト・リバーは、バークシャー・ハサウェイにとって最も成功した投資のひとつであり、同社の成長に大きく貢献した。
2005年、リーグルはフォレスト・リバーをバークシャーに売却する決断を下し、その際の給与交渉はビジネス界でも異例のものだった。バフェットが「望む額を決めるように」と提案すると、リーグルは自身の報酬を10万ドルとし、成果報酬を求めた。バフェットはその姿勢に驚嘆し、彼を「競争相手のいない存在」と絶賛した。
フォレスト・リバーはその後も安定した成長を続け、バークシャーの消費財部門における主要企業の一つとなった。リーグルの経営手腕は、企業買収や市場の変動を乗り越え、バークシャー全体の収益向上に寄与した。バフェットは「一つの成功した決断が長期的な成果を生む」と語り、リーグルの功績を称えた。
ピート・リーグルが貫いた経営哲学と報酬体系の特徴

ピート・リーグルがフォレスト・リバーを率いた19年間、その経営哲学は一貫していた。彼は従業員の士気を高め、企業の利益を長期的に成長させることを最優先に考えた。バフェットに対し、彼自身の報酬を10万ドルに抑える一方で、フォレスト・リバーの業績向上に連動するボーナスを要求したことも、その姿勢を示している。成果に基づく報酬制度は、一般的な大企業の固定給与制とは一線を画し、経営者としての責任を強く意識させるものだった。
この報酬体系は、単なる謙虚な姿勢ではなく、フォレスト・リバーの成長と収益性に直結するインセンティブの仕組みとして機能した。リーグルは、企業の業績が上がれば自らの収入も増えるが、業績が低迷すればその分報酬も減るというリスクを受け入れた。これは、短期的な利益の最大化ではなく、持続的な成長を目指す経営戦略だったと考えられる。
バフェットはこれを高く評価し、リーグルを「唯一無二」と称賛した。企業買収の場面でしばしば見られる、創業者が莫大な資産を手にした後に経営のモチベーションを失う現象は、フォレスト・リバーには見られなかった。リーグルのコミットメントは、従業員や取引先にも好影響を与え、結果的にバークシャー・ハサウェイ全体の成功につながった。
フォレスト・リバーの成長と市場環境の変化
フォレスト・リバーは、バフェットが買収した2005年以降も順調に成長を続けた。2024年の年次報告では、同社の業績が消費財部門全体の収益向上に大きく寄与したことが明らかになっている。RV業界は景気の影響を受けやすいものの、同社は安定した売上を維持し続けた。その背景には、リーグルが築いた堅実な経営基盤と、市場環境への柔軟な対応があったと考えられる。
特に、2023年はインフレや金利上昇による影響を受けたが、フォレスト・リバーはその逆風を乗り越え、収益を拡大した。2024年にはユニット販売数が7.9%増加し、企業買収を含めた成長戦略が功を奏したと報告されている。これは、業界全体の低迷にもかかわらず、フォレスト・リバーが市場シェアを拡大し続けていることを示唆する。
また、同社は非公開企業であるため、詳細な財務データは公表されていないものの、「数十億ドル規模の企業」としての地位を確立している。競争が激しいRV業界において、フォレスト・リバーが成長を維持できたのは、リーグルの経営手腕によるものが大きい。彼の死後も、同社がバフェットの期待に応え続けるかが注目される。
ワーレン・バフェットの買収手法と長期的視点
バフェットは、企業買収の際に複雑な交渉を避け、相手の誠実さを重視する傾向がある。フォレスト・リバーの買収も例外ではなく、リーグルの提示額を即座に受け入れ、さらに同社が所有する不動産もリーグルの評価を基に購入するという大胆な判断を下した。これは、バフェットが短期的な利益ではなく、長期的な成長を見据えていたことを示している。
この決断は結果的に成功を収め、フォレスト・リバーはバークシャー・ハサウェイにとって最も収益性の高い投資の一つとなった。バフェットは「誤った判断を下すこともあるが、一つの成功が長期的に驚くべき成果をもたらす」と述べている。これは、企業経営においても、一度の適切な決断が長期にわたる成長の礎となることを意味している。
また、バフェットがリーグルを評価したのは、単に数字上の成功だけではない。彼の経営哲学や企業文化が、バークシャー・ハサウェイの価値観と一致していたことも大きな要因である。短期的な株価の上下に左右される経営ではなく、持続的な成長を重視する姿勢こそが、バフェットが長年にわたり重視してきた要素だ。
リーグルの死後、フォレスト・リバーがどのような方向に進むのかは不透明な部分もある。しかし、バフェットの「勝者は永遠に成長し続ける」という言葉が示すように、同社がこれまで築き上げた基盤が今後も活かされる可能性は高い。
Source:Fortune