異なる投資哲学を持つキャシー・ウッドとウォーレン・バフェットがともに強気の姿勢を示すフィンテック企業がある。それが、ラテンアメリカ最大級のデジタル金融サービス企業ヌー・ホールディングス(NU)である。2013年に創業された同社は、ブラジルを中心にメキシコなどへと事業を拡大し、急成長を遂げている。
2023年第4四半期決算では、売上高が前年比24.3%増の29億ドル、純利益が前年比41.3%増の0.11ドルと大幅な成長を記録した。顧客基盤も順調に拡大し、1億1420万人の顧客を抱えるまでに成長。特にメキシコ市場への進出は今後の成長の鍵を握る。
また、給与ローン市場の約70%をカバーするなど、金融エコシステムの多角化を進めており、通信事業への参入も視野に入れる。アナリストの平均目標株価は15.60ドルで、現在の水準から約40%の上昇余地が見込まれている。投資家にとって、今後の市場動向とともに注視すべき銘柄の一つであることは間違いない。
ヌー・ホールディングスの成長を支える圧倒的な顧客基盤

ヌー・ホールディングス(NU)は、ラテンアメリカにおけるデジタル金融サービスのリーディングカンパニーとして急成長を遂げている。特にブラジルでは、同国の成人の半数以上が同社の金融サービスを利用し、すでに国内で3番目に多くの顧客を抱える金融機関となった。2023年第4四半期時点での総顧客数は1億1420万人に達し、前年比22%増という成長を記録。さらに、アクティブ顧客率は83%にのぼり、高いエンゲージメントが確認されている。
この顧客基盤の拡大を支えているのは、ヌーが提供するシンプルかつ利便性の高い金融サービスである。年会費無料の国際クレジットカードやデジタル銀行口座「NuConta」は、手数料を抑えたサービス設計が特徴であり、従来の銀行に対する不満を抱える消費者層を強く惹きつけた。さらに、個人向けローンや投資商品といった幅広いサービスを展開し、顧客の金融ニーズに対応している。
今後、同社の成長を加速させる要因の一つがメキシコ市場の開拓である。すでに同国で1000万人以上の顧客を獲得しており、今後の市場シェア拡大が期待される。また、小売大手FEMSA傘下の「Oxxo」との提携を通じて、全国2万2000以上の店舗で現金引き出しが可能となり、さらなる利便性の向上を実現。こうした戦略が奏功すれば、ヌーはラテンアメリカ全域での影響力を一層強めることとなる。
事業拡大戦略と新たな収益源の確立
ヌー・ホールディングスは、単なるデジタル銀行にとどまらず、多角的な収益モデルを確立しようとしている。その一例が、給与ローン市場への進出である。2024年には公的機関、地方自治体、大企業との契約を11件締結し、給与天引きローンの提供を開始。この市場において約70%のシェアを確保するに至り、安定した収益源を築きつつある。
さらに、通信事業への参入も注目すべきポイントだ。ヌーは「NuCell」というモバイル通信サービスを開始し、現在は一部顧客向けにデジタルSIMの提供を行っている。今後、物理SIMカードの導入も計画されており、通信分野における事業拡大が進められる見通しである。この動きは、同社がすでにプリペイド携帯料金の22%の市場シェアを持つことを考えれば、十分な成長余地があるといえる。
また、ヌーは顧客データを活用したマーケットプレイス事業にも着手している。旅行、リテール特典、モバイル通信といった分野で新たなサービスを展開し、金融サービスとの相乗効果を狙う。特に、ヌーのプラットフォーム上での取引増加によって、データを活用したパーソナライズドな金融商品やマーケティングが可能になり、収益機会の最大化が図られる。
アナリスト評価と投資家の関心が集まる背景
ヌー・ホールディングスに対する市場の評価は総じて高い。アナリスト14名のうち、「強い買い」と評価したのは7名、「ホールド」が5名、「強い売り」が2名となっており、総合評価は「適度な買い(Moderate Buy)」に分類される。平均目標株価は15.60ドルとされており、現在の水準から約40%の上昇余地が見込まれている。
この評価の背景には、同社の堅調な財務状況がある。2023年末時点でのキャッシュ残高は92億ドルと、年初の59億ドルから大幅に増加。顧客基盤の拡大とともに、財務の健全性も高まっている。また、不良債権比率は4.1%と前四半期の4.4%から改善しており、信用リスクの管理も強化されている点はポジティブな要因といえる。
しかし、課題も存在する。第4四半期決算では、売上と利益が市場予想をわずかに下回ったほか、純金利マージン(NIM)は0.7ポイント低下し17.7%となった。この点は、金融サービス企業にとって収益性を左右する重要な指標であり、今後の推移が注視される。
キャシー・ウッドとウォーレン・バフェットという対照的な投資家がともに同社の成長性を評価している点は興味深い。ウッドは革新的な企業への投資で知られ、バフェットは堅実なビジネスモデルを重視する。両者がヌーに注目することは、同社が単なる成長企業ではなく、持続可能なビジネス基盤を持つことを示唆している。今後の市場動向次第ではあるが、ラテンアメリカ金融市場におけるヌーの存在感はさらに高まる可能性がある。
Source:Barchart.com