PC冷却技術の専門企業Thermal Grizzlyが、デリッド済みのAMD Ryzen 7 9800X3Dプロセッサを販売開始した。このCPUはオーバークロック愛好家向けにIHS(統合ヒートスプレッダー)を取り外し、直接冷却可能な状態に加工されている。
デリッドにより熱伝導効率が向上し、温度低下による安定動作やパフォーマンス向上が期待できるが、AMDの公式保証は無効となる。そこで、Thermal Grizzlyは2年間の独自保証を提供し、動作テスト済みの製品として販売する。価格は$712.95(約10万円)で、公式ショップ限定販売。今後はRyzen 9 9950X3Dなどの追加モデルも予定されている。
Thermal Grizzlyのデリッド済みRyzen 7 9800X3Dがもたらす新たな選択肢

Thermal Grizzlyは、デリッド済みのAMD Ryzen 7 9800X3Dを販売することで、オーバークロック愛好家や高性能PCを求める層に新たな選択肢を提供した。デリッドとは、CPUのIHS(統合ヒートスプレッダー)を取り外し、冷却性能を向上させる技術であり、これによりダイに直接冷却システムを適用できる。
通常、この作業はリスクが伴うため、個人が手作業で行うことが多かったが、Thermal Grizzlyが公式に販売することで、安全性と品質が保証される形となった。このデリッド済みCPUは、購入者向けに動作テスト結果をUSBメモリで提供し、顕微鏡レベルの精密検査を実施することで、動作保証を徹底している。
また、価格は$712.95(約10万円)に設定されており、AMDの公式保証は無効となるものの、Thermal Grizzlyが独自の2年間保証を付与することで、安心感を提供している。デリッド作業の手間を省き、信頼性を確保したいユーザーにとって、この製品は魅力的な選択肢となるだろう。
デリッドによる冷却性能の向上とオーバークロックの可能性
デリッドの最大の利点は、CPUの冷却性能を向上させる点にある。通常、IHSとダイの間にはサーマルインターフェース材(TIM)が使用されるが、これが熱伝導の障壁となり、冷却効率を低下させる要因となる。デリッドを施すことで、ダイと冷却システムが直接接触できるため、熱伝導率が向上し、CPUの温度を大幅に下げることが可能になる。
温度低下は、オーバークロック時の安定性にも寄与する。高温環境ではCPUの動作が不安定になり、サーマルスロットリングによって性能が制限されることがあるが、デリッド済みのCPUではこの影響を最小限に抑えることができる。
特に、AMD Ryzen 7 9800X3Dのような3D V-Cacheを搭載したモデルでは、通常のRyzenシリーズより発熱が大きくなる傾向があるため、冷却効率の向上はパフォーマンス面で大きな意味を持つ。ただし、デリッドにはリスクも伴う。
冷却性能が向上することでオーバークロックの余地が広がるものの、電圧の過剰な調整や冷却不足が原因でCPUを損傷させる可能性もある。そのため、オーバークロックを試みる際は適切な冷却システムの導入と、安定動作の確認が不可欠となる。
デリッド済みCPU市場の今後とThermal Grizzlyの戦略
Thermal Grizzlyは、今回のRyzen 7 9800X3Dの販売を皮切りに、デリッド済みCPUのラインナップを拡充する方針を示している。すでにRyzen 9 9950X3Dのデリッド版が計画されており、Intel CPUのデリッド済みモデルについても検討が進められている。ただし、現時点ではCore Ultra 200シリーズのデリッドモデルに対する需要は限定的とされており、導入には慎重な判断が求められる。
デリッド済みCPUの市場は、これまでDIYユーザー向けのニッチな分野にとどまっていたが、Thermal Grizzlyの参入により、市場の拡大が期待される。特に、デリッドのリスクを負いたくないが冷却性能の向上を求めるユーザーにとって、メーカー保証付きのデリッド済みCPUは魅力的な選択肢となる可能性がある。
一方で、AMDやIntelなどのCPUメーカーが今後の公式製品ラインナップにおいて、冷却効率の高い設計を採用する可能性も考えられる。もし将来的にメーカー側がデリッド不要の構造を採用した場合、Thermal Grizzlyのビジネスモデルに影響を与える可能性がある。この点を考慮すると、今後の市場動向を見極めながら、同社がどのような戦略を打ち出すかが注目される。
Source:OC3D