バンク・オブ・アメリカ・セキュリティーズのジョン・マーフィー氏は、テスラの製品投入の遅れが競争力低下につながると指摘した。モデル3は8年、モデルYは5年が経過し、中国メーカーが2〜3年ごとに新モデルを発表する中で遅れが目立つ。また、2025年半ば予定の低価格車の実現性にも疑問を呈した。
さらに、テスラの企業価値の50%がフルセルフドライビング(FSD)とロボタクシーに依存しているとし、完全自動運転の普及にはインフラ整備が不可欠だと強調。加えて、イーロン・マスクの政治的スタンスが購買層の縮小を招く可能性も指摘された。
テスラの株価は1.47%上昇したが、欧州市場の需要減退や中国EVメーカーの台頭などリスクが顕在化している。一方で、FSDが実用化されれば移動の在り方を変え、経済に大きな影響を与える可能性があると分析された。
テスラの製品サイクルの遅れが生む競争力低下の懸念

テスラの主力モデルであるモデル3は発売から8年、モデルYは5年が経過しており、自動車業界の一般的なモデルチェンジ周期を大幅に超えている。特に、中国のEVメーカーが2〜3年ごとに新モデルを投入し、技術革新を加速させている現状と比較すると、テスラの製品サイクルの遅れは顕著である。これは単なるモデル更新の遅延ではなく、消費者の関心を持続させる上での課題となり、競争優位性を損なう要因になりかねない。
また、テスラが2025年半ばに発売を予定している3万ドルの低価格EVも、スケジュール通りの投入が不透明とされている。この価格帯のEV市場では、中国メーカーのBYDやNIOが急速にシェアを拡大しており、テスラが遅れを取れば市場競争において不利な立場に置かれる可能性がある。低価格モデルの開発は、原材料価格の変動やサプライチェーンの問題に大きく影響されるため、テスラにとって容易な課題ではない。
この製品サイクルの遅れが、同社のブランド力や市場シェアにどのような影響を与えるかは、今後の戦略次第で変わるだろう。従来のテスラは技術革新と市場の期待感を武器に成長してきたが、競争環境が厳しさを増す中で、スピーディな商品展開が求められる局面に入っている。
FSDとロボタクシー依存のリスクと技術の実現性
テスラの企業価値の約50%は、フルセルフドライビング(FSD)とロボタクシーの実現に依存していると指摘されている。完全自動運転技術が普及すれば、車両の利用形態は大きく変わり、新たな交通インフラの構築を促進する可能性がある。しかし、現状では完全自動運転の導入には多くの技術的・法的課題が残されており、短期的な実現には懸念がある。
特に、現在の交通システムでは、人間の運転とAIによる制御が混在する環境下での安全性の確保が課題となる。マーフィー氏も、FSDが本格的に機能するためには専用レーンの設置が必要になる可能性を指摘している。加えて、5G通信を活用した「スマート道路」のインフラ整備が進まなければ、FSDの実用化は限定的となる。テスラが他の自動車メーカーにFSD技術をライセンス供与する可能性もあるが、市場全体の受容度や規制環境次第では、その展開スピードは制約を受けるだろう。
テスラは自動車メーカーであると同時に、テクノロジー企業としての側面を持つ。FSDが実用化されれば、輸送の概念そのものを変える可能性があるが、現時点では実現に向けたインフラ投資や規制との調整が不可欠となる。ロボタクシー事業を含め、テスラの将来の成長戦略は、技術開発だけでなく、それを支える社会的基盤の整備とセットで進める必要がある。
イーロン・マスクの影響力とテスラの市場評価への波及
テスラのカリスマ経営者であるイーロン・マスクは、同社の象徴的存在でありながら、近年の発言や政治的立場が消費者層の分断を招く要因となっている。特に、ヨーロッパ市場では、彼の政治的スタンスが一部の消費者に敬遠される要因となっており、テスラの販売動向にも影響を及ぼしている可能性がある。
また、マスクはドージコイン(DOGE)などの仮想通貨関連事業や他のテクノロジープロジェクトにも注力しており、これがテスラのブランドイメージにとってプラスかマイナスかは意見が分かれるところだ。自動車業界はブランドの一貫性が重要であり、CEOの発言や行動が市場評価に与える影響は小さくない。テスラは独自のマーケティング戦略を持つ企業だが、マスクの個人的な発言が投資家や消費者の信頼を損なうリスクも内包している。
一方で、マスクの影響力はテスラにとって不可欠な要素でもある。彼のビジョンは、FSDやロボタクシーといった未来のモビリティ構想と密接に結びついており、これが市場の期待感を支えている。テスラの株価は一時8%以上下落したものの、翌日には1.47%の反発を見せており、市場は同社のテクノロジー企業としての側面と、EVメーカーとしての課題を天秤にかけながら評価している。今後、マスクの発言やテスラの戦略が、企業価値の安定にどのような影響を与えるかが注目される。
Source:Wall Street Pit