AMDは、最新グラフィックスカード「Radeon RX 9070」および「Radeon RX 9070 XT」の仕様や性能詳細を正式発表し、3月6日に発売する。新たに採用されたRDNA 4アーキテクチャでは、H.264低遅延エンコード品質が25%向上、HEVCで11%向上、720pでは30%向上を達成したとAMDは主張。さらにAV1エンコードにはBフレームが追加され、映像品質強化に注力した。

レイトレーシング性能も大幅に進化し、専用コアに交差エンジンを2基搭載。レイ-ボックスおよびレイ-トライアングル処理のスループットが倍増し、ラスタライズ性能を上回る進化を遂げた。チップはTSMCの4nmプロセスを採用し、539億トランジスタを搭載。Nvidia RTX 5080比で15%劣るラスタライズ性能が見込まれる一方、消費電力は18%低く、パフォーマンスと効率のバランスを追求している。

リファレンスモデルは製造されず、ASUSやGigabyteなどのボードパートナーからのみ供給される。ドライバーレベルではAFMF 2.1によるフレーム生成強化や、Radeon Image Sharpeningの適用範囲拡大も実施。新世代Radeonはエンコード、レイトレーシング、消費電力の全方位で進化を遂げるが、Nvidiaとの性能差や実ゲームプレイ時の検証結果が今後の焦点となる。

RDNA 4がもたらすエンコード品質の大幅向上と実用面での変化

AMDがRadeon RX 9070シリーズに採用したRDNA 4アーキテクチャは、映像エンコード機能において過去世代から大きく進化した。特にH.264およびHEVC形式の低ビットレート帯での画質向上に力を入れ、1080p・6Mbpsという配信シーンで一般的な設定において、画質の飛躍的向上を達成したとしている。

具体的には、H.264低遅延エンコード品質が25%、HEVCエンコード品質が11%、720pのエンコード性能が30%向上したという数値が示されている。さらにAV1エンコードにはBフレームがサポートされ、映像圧縮効率と画質の両立に寄与している。

AMDが示したこれらの数値は、VMAFスコアなど客観的指標に基づく可能性が高いが、現時点では具体的な計測条件や比較対象が明示されていない。これまでNvidia製GPUがエンコード用途で事実上のデファクトスタンダードとなっていた背景を踏まえれば、AMDのエンコード品質向上がどの程度実使用環境に反映されるかが重要となる。

特にゲーム配信などリアルタイムエンコードでは、画質のみならず処理負荷や安定性も鍵を握る。エンコード強化が単なる機能改善に留まらず、クリエイター層の選択肢拡大につながるかは、今後の実機レビューやユーザー評価を待つ必要がある。

レイトレーシング性能を2倍へ引き上げた新設計とNvidiaとの差

Radeon RX 9070シリーズのRDNA 4アーキテクチャでは、レイトレーシング性能強化にも大きな焦点が置かれている。従来1基だったレイトレーシングコア内の交差エンジンが2基に増設され、レイ-ボックス交差処理およびレイ-トライアングル交差処理のスループットが倍増した。また新たにレイトランスフォームブロックが加わり、一部のレイトレーシング処理がシェーダーからRTコアへオフロード可能となった。この結果、RDNA 4世代ではレイトレーシング性能向上率がラスタライズ性能の向上を上回るとAMDは強調している。

さらにBVH(Bounding Volume Hierarchy)構造も2倍の幅に拡張され、レイの探索効率が改善された。これらの強化により、AMDはレイトレーシングにおける品質とパフォーマンスの双方で飛躍を狙う。一方、NvidiaのRTX 5080や5070 TiなどBlackwell世代が擁するレイトレーシング性能と比較した場合、性能差は依然として小さくないと推測される。実際、Nvidiaはレイトレーシング対応タイトルへの最適化やDLSSとの組み合わせによる総合的なゲーム体験の底上げを進めており、ハードウェアの強化だけでは追いつかない領域も存在する。

AMDが新世代で示した技術的進化は、競合との差を埋める重要な布石であることは間違いない。しかし、レイトレーシング対応タイトルにおける描画品質やパフォーマンス、互換性といった実際のユーザー体験に直結する要素が、Nvidiaと比べてどこまで改善されるかは、発売後の検証に委ねられる。AMDがレイトレーシング性能強化を前面に押し出す姿勢自体が、これまでの遅れを認識した上での巻き返し戦略の一環と捉えられる。

高密度設計のNavi 48と消費電力・市場戦略のバランス

Radeon RX 9070シリーズに搭載されるNavi 48ダイは、TSMCの4nmプロセスを採用し、357mm²のダイサイズに539億トランジスタを実装する非常に高密度な設計となっている。NvidiaのRTX 5080や5070 Tiに採用されるBlackwell GB203と比較すると、ダイサイズは5%小型ながら、トランジスタ数は18%多い。こうした設計上の工夫により、AMDは性能向上とコスト抑制の両立を目指したと考えられる。

一方、性能面においては、RX 9070 XTのラスタライズ性能がRTX 5080に対し約15%下回る可能性があると見られている。また、レイトレーシング性能では50%以上の差がつく可能性も示唆されている。しかし、消費電力面ではRX 9070 XTがTDP304Wに抑えられ、RTX 5080の360Wと比べ約18%低い。特に実際のゲームプレイ時における消費電力はRTX 5070 Tiに近いと推測されており、高性能化と省電力化のバランスを意識した設計思想が読み取れる。

AMDはリファレンスモデルを用意せず、ASUSやGigabyte、PowerColor、Sapphire、XFXといったボードパートナー製品のみを市場投入する方針も明らかにしている。製品ラインアップの柔軟性を確保しつつ、パートナー各社の独自設計による差別化や価格競争力を重視する戦略といえる。技術的進化と市場戦略を両輪とするAMDの方針は、Nvidiaの独自路線と対照的なアプローチとなっており、最終的な市場評価は実際のパフォーマンス検証や価格設定、ユーザー体験に強く左右されることになる。

Source:TechSpot