時価総額1,120億ドルのAppLovinが、AI駆動型広告ソフト「AXON」を巡る激しい評価分裂の渦中にある。同社は2021年の上場以来400%の株価上昇を遂げた一方、2月26日には空売りレポートを受けて12%の急落を記録した。レポートでは、Metaからのデータ窃盗やGoogle・Appleのアプリストア規約違反、さらには不正広告戦術を指摘されており、AXONが同社の中核事業であるだけに市場への影響も大きい。

AppLovinはこれを全面否定し、業績データや戦略転換を強調する姿勢を貫いている。2024年第4四半期決算では売上高44%増、調整後EBITDA78%増を達成し、AI広告プラットフォーム化を加速。約9億ドルでアプリ事業を売却し、広告特化への再編も推進中である。

ウォールストリートでは強い成長見通しを背景に「強い買い」推奨が優勢だが、空売り勢による信頼性への疑念が払拭されるかは不透明で、今後も強気派と弱気派の攻防が続く可能性が高い。



AppLovinの成長戦略と広告事業への大胆な転換 AI技術AXONを軸にした新たな収益基盤の確立

AppLovinは2023年にAI駆動型広告プラットフォーム「AXON」を刷新し、従来のゲーム領域に依存した事業構造から脱却を図ってきた。2024年第4四半期決算では売上高が前年同期比44%増の13億7,000万ドルを記録し、広告部門単体でも9億9,900万ドルに到達。これに伴い、約9億ドルでゲームアプリ事業を完全売却する計画を明らかにし、広告プラットフォーム企業としての再定義を進めている。

同社はAI技術を活用したターゲティング精度の向上を強調し、広告主への価値提供を最大化することで新たな収益源の確立に注力している。特に、AXONを基盤とする広告システムは、1日あたり10億人超のユーザーにリーチし、SNSと同水準のエンゲージメントを実現している点が特徴である。また、2024年通期では広告売上高が10億3,000万ドルから10億5,000万ドル、調整後EBITDAが8億500万ドルから8億2,500万ドルに達する見通しも示された。

AppLovinの事業転換は、単なる事業ポートフォリオの見直しにとどまらず、AI広告技術への大胆なシフトによって広告市場の競争優位性を高める狙いがある。高度なデータ解析とリアルタイム最適化技術により、広告効果を最大化し、広告主に対するリターンを高めるというモデルは、競合との差別化要素となる可能性を持つ。一方、事業構造の大幅な変革が成長ドライバーとなるか、潜在リスクとして顕在化するかは今後の市場評価に委ねられる。


空売りレポートが突きつけた不正広告疑惑とデータ利用の倫理問題 AppLovinの反論と投資家心理への影響

2024年2月26日、AppLovin株は2件の空売りレポートを受け12%急落した。Fuzzy Pandaは、AppLovinの中核技術であるAXONが「不正広告戦術によって支えられている」と批判し、Metaからのデータ窃盗やGoogle・Appleのアプリストア規約違反など、データ利用の倫理違反を強く非難した。さらに、Culper Researchは、AppLovinのゲーム事業において「アプリ権限を悪用し、ユーザーの気付かない裏口インストールを強制的に行っている」と指摘。

これに対し、AppLovinは「事実に基づかない不正確な内容」と全面否定し、意図的なタイミングを狙った市場操作だと強く反論した。さらに、2023年以降の広告プラットフォーム転換戦略や業績データを公開することで、自社の透明性と成長戦略の正当性を強調。2024年第4四半期の調整後EBITDAは8億4,800万ドルと前年同期比78%増、フリーキャッシュフローは105%増の6億9,500万ドルと、空売り側の主張とは対照的な成長を示している。

AppLovinに対する不正広告疑惑やデータ倫理への疑問は、急成長を遂げる同社の事業基盤そのものに直結する問題であり、投資家心理に与える影響も無視できない。ウォールストリートでは依然15人のアナリストが「強い買い」を推奨する一方、企業姿勢やコンプライアンス体制に対する長期的な信頼回復が求められる状況であり、レピュテーションリスクの管理が今後の成長を左右する重要な鍵となる。


強気予測と割高感が交錯するAppLovin株の評価 55%上昇余地と先行PER49倍のバランス

AppLovin株に対するウォールストリートのコンセンサスは依然強気に傾いており、2025年の売上は58億ドル、1株当たり調整後利益(EPS)は6.56ドルと予測されている。フリーキャッシュフローも2025年には29億ドルに拡大する見込みで、株価上昇余地は現在の水準から55%と試算されている。19人のカバレッジアナリストのうち15人が「強い買い」を継続しており、企業成長力への期待感は依然高い。

しかし、AppLovin株の先行PERは49倍、先行フリーキャッシュフロー倍率は38.6倍と、成長株特有の高水準に位置している。急成長を背景に一定の割高感が容認される構造にあるものの、空売りレポートによる信頼性低下やコンプライアンスリスクを加味した場合、その高いバリュエーションの正当性が揺らぐ可能性は否定できない。

AppLovinの事業モデルは、広告技術を核とする収益構造への転換を図る中で、データ活用手法やプラットフォーム運営の透明性が厳しく問われる局面にある。成長期待に基づく株価形成が続くか、不透明感によるリスクプレミアムが意識されるかは、空売り勢と強気派の攻防によって左右される状況であり、市場は短期的な株価動向だけでなく、事業の持続性と透明性を見極める冷静な視点を求められている。


Source:Barchart