著名投資家キャシー・ウッドが、人工知能を活用した個別化医療を展開するTempus AIに対して、2月下旬に2480万ドル規模の追加投資を実施した。ウッドの主力ファンドであるARK Innovation ETFおよびARK Genomic Revolution ETFを通じた買い増しにより、保有額は合計4億3820万ドルに達している。

Tempus AIは、がんや循環器疾患を中心とした個別化医療の推進にAIを駆使し、非構造化データ解析や患者選定支援システム「Tempus One」の強化を進める。第4四半期決算は予想未達ながら、売上は35.8%増、損失も大幅縮小し、2025年の売上予想も79%増へと上方修正。

さらに、遺伝子検査大手Ambry Geneticsの6億ドル買収や、新型全ゲノム解析「xH」の導入、AIヘルスアシスタントアプリ「Olivia」の展開により、AI医療プラットフォームの統合を加速。財務体質改善と成長戦略を両立させる企業姿勢が、長期投資家からの評価を支える可能性がある。



キャシー・ウッドが追加投資を加速させるTempus AIの事業構造と直近決算が示す成長路線

Tempus AIは、2015年の創業以来、人工知能を駆使した個別化医療の提供を軸に事業展開を続けてきた。臨床データや分子データをAI解析し、がんや循環器疾患などの精密医療を実現するプラットフォームを構築している。2024年には、米国内の提携医療機関数が約3,000に達し、データ収集と解析基盤を強化してきた点が特徴的である。

2025年に向けての成長加速を裏付ける材料として、第4四半期の業績推移が挙げられる。2024年第4四半期の売上は前年同期比35.8%増の2億70万ドルとなり、ゲノミクス部門単体でも1億2040万ドルに拡大。データ&サービス部門も44.6%増の8020万ドルを記録するなど、各事業セグメントで順調に成長を続けている。

一方で、同期間の1株当たり損失は0.18ドルと、前年の1.58ドルから大幅に縮小したものの、依然として黒字化には至っていない。ただ、2024年通期の営業キャッシュフロー純流出額は1億8905万ドルと、前年の2億1430万ドルから改善。財務面ではキャッシュフロー管理や負債比率の低下が進み、安定性の強化が着実に図られている。

AIとデータ統合戦略が支えるTempus AIの中核事業と競争力の源泉

Tempus AIの事業戦略において核となるのが、独自のAIプラットフォームを基盤としたデータ統合力の強化である。同社が推進する「Tempus One」は、大規模言語モデル(LLM)を活用した医療特化型のAIエージェントであり、医師や研究者が個別化医療に不可欠なデータを的確に把握し、迅速な診断・治療方針の策定を支援する仕組みとなっている。

特筆すべきは、医療現場に存在する膨大な非構造化データの解析能力である。病理報告や画像スキャンデータから、適格な臨床試験対象者をAIが特定し、研究者に自動通知する仕組みは、医療データ活用の高度化に向けた先進的な取り組みといえる。加えて、2024年にはがんや希少疾患に強みを持つ遺伝子検査企業Ambry Geneticsを6億ドルで買収。遺伝子解析データを自社AI基盤に統合し、個別化医療の精度向上に向けた体制強化を進める。

AI統合型医療の分野において、膨大な医療データと独自アルゴリズムを掛け合わせたデータプラットフォームを確立できる企業は極めて限られる。Tempus AIが、医療機関ネットワークとAI解析基盤を両輪で進化させることで、長期的な市場優位性を築く可能性が高まっている。

キャシー・ウッドが示唆する長期投資の狙いとTempus AIの潜在成長力

キャシー・ウッドが2024年2月末に2480万ドル分のTempus AI株を追加取得した背景には、同社の事業モデルが長期成長に耐えうる構造を持つと判断した側面がある。彼女の主要ファンドであるARK Innovation ETFおよびARK Genomic Revolution ETFを通じた累計保有額は4億3820万ドルに達しており、単なる短期投資ではなく中長期視点の強い信念をうかがわせる。

その裏付けとなるのが、2025年売上見通しの上方修正である。前年比79%増となる12億4000万ドルという数値は、1月時点の暫定予想を上回る水準であり、医療AI市場における需要の高まりとTempus AIの事業拡大スピードを示唆している。さらに2024年の純収益維持率が140%に達した点も重要である。既存顧客がサービス価値を評価し、継続的な契約更新と追加サービスへの支出増加につながっている。

一方、AI医療分野は競争が激化し、規制環境やデータ保護への対応が競争力を左右する要素となる可能性もある。Tempus AIがAmbry Genetics買収やAIヘルスアシスタント「Olivia」の提供など、事業領域を拡大しながらもデータの信頼性確保と倫理面の対応を強化することが、長期的な成長継続には不可欠である。


Source:Barchart