ミニPCメーカーのMinisforumが、新型ゲーミングマザーボード「BD790i X3D」を正式発表した。本製品はITXフォームファクターを採用し、モバイル向けながら16コア32スレッドを誇るAMD Ryzen 9 7945HX3Dプロセッサを搭載。2基のM.2スロットはPCIe 5.0 x4に対応し、最大4TBの高速ストレージ構成が可能となっている。
さらに、大型ヒートシンクが基板表面の約80%を覆う独自の冷却機構を採用し、12cmファンによる高効率なエアフローを確保。高負荷時の安定動作に加え、ノートPCと比較して冷却性能と静音性の両立を目指す設計となっている。
BD790i X3Dには統合GPUとしてRadeon 610Mを備えるが、PCIe 5.0 x16スロットの存在が示唆されており、専用グラフィックスカードの搭載による性能拡張の可能性もある。599ドルという価格設定に対する評価は分かれるが、省スペース設計を重視するユーザー層からの注目は高まりそうだ。
モバイル向けRyzen 9 7945HX3Dを搭載したBD790i X3Dの仕様と特徴

MinisforumのBD790i X3Dは、AMDのDragon Rangeシリーズに属するRyzen 9 7945HX3Dを採用することで、ITXフォームファクターながら16コア32スレッドの処理能力を実現するモデルである。このプロセッサはモバイル向けながらTDP100Wに設定され、ノートPC用途を超えるパフォーマンスをコンパクトな基板上に集約する。
メモリにはDDR5-5200対応のSODIMMスロットを2基搭載し、最大96GBの拡張が可能。ストレージもPCIe 5.0 x4対応のM.2スロットを2基備え、最大4TBまでの高速ストレージ環境を構築できる。また、映像出力にはHDMI 2.1 FRLやDP1.4を装備し、8K@60Hzや4K@120Hz出力に対応するなど、コンテンツ制作や高解像度ディスプレイ環境にも適応する設計となっている。
基板表面には専用設計の大型ヒートシンクが実装され、冷却ファンは12cmサイズを確保。さらにPCIe 5.0 SSD向けには個別のアクティブクーラーを搭載することで、長時間の高負荷状態でも転送速度の維持を図る。これらの冷却機構が組み合わさることで、ノートPC向けに最適化された7945HX3Dをデスクトップ環境でより安定したパフォーマンスへ引き上げる構成といえる。
BD790i X3Dに見られる設計思想と市場に与える影響
BD790i X3Dの設計からは、デスクトップとモバイルの境界を再定義する方向性が読み取れる。従来モバイル向けとされたX3DチップをITXマザーボードに搭載することで、デスクトップ並みの拡張性とモバイル由来の省スペース性を両立させる狙いが感じられる。特に、PCIe 5.0対応ストレージや大容量メモリへの対応は、現行の小型PCプラットフォームにおける制約を大きく緩和するものとなる。
加えて、専用設計の冷却機構は、単なるノートPC向け部品の流用にとどまらず、デスクトップ運用を前提とした独自最適化を施した点が評価される。特に12cmファンを備えた大型ヒートシンクは、単なる放熱性能の向上だけでなく、ファンノイズ抑制や高負荷時の安定動作にも貢献する可能性がある。この冷却技術は他のコンパクトシステムにも波及する余地を持つだろう。
一方で、599ドルという価格設定は、市場の受け止め方を左右する要素になる。AM5プラットフォームやRyzen 7 7800X3Dとのコスト比較では割高感が否めないものの、省スペースと冷却性能の両立を求めるユーザー層にとっては、唯一無二の選択肢となる可能性もある。BD790i X3Dが示すモバイルX3Dチップの新たな活用事例は、今後の省スペースPC市場に一定の影響を与えることになりそうだ。
専用GPU非搭載時の運用スタイルとBD790i X3Dのポテンシャル
BD790i X3Dには統合GPUとしてRadeon 610Mが組み込まれている。RDNA 2アーキテクチャを採用するこの統合GPUは、現行のデスクトップ向けグラフィックスカードと比べると性能は限定的だが、レトロゲームや画質を重視しない競技系タイトルであれば一定のフレームレートを確保できる。
また、BD790i X3DはHDMI 2.1 FRLやDP 1.4、USB 3.2 Gen2 Type-C(Alt DP)を搭載し、専用GPUを追加せずとも3画面構成が可能になる。複数のモニターを利用した生産性重視の用途にも柔軟に対応できる点は、他の小型マザーボードには見られない強みとなる。ただし、Radeon 610Mの性能には限界があり、4K解像度での映像編集や最新ゲームには専用GPUの補完が不可欠となる。
現時点で公式には明記されていないが、BD790i X3DにはPCIe 5.0 x16スロットが存在する可能性が示唆されている。これが事実であれば、デスクトップ向けグラフィックスカードの増設によって、コンパクトなゲーミングPCやクリエイティブワークステーションとしての展開も視野に入る。専用GPUを搭載しない構成から拡張型のシステムまで、用途に応じた柔軟な構築が可能な点は、同クラスの製品には見られない強みとして注目に値する。
Source:Tom’s Hardware