量子コンピューティングの先駆企業D-Wave Quantum(ティッカー:QBTS)が、2024年3月13日に2023年第4四半期決算を発表する。アナリスト予測ではQ4売上が223万ドルと見込まれ、前年同期比23.4%減と減収傾向が続く見通しである。一方、1株当たり損失は0.06ドルと前年の0.09ドルから縮小が予測されており、コスト構造改善の兆しもみられる。
2023年第3四半期には売上が190万ドルと前年同期比27%減少したものの、主力の量子コンピューティング・アズ・ア・サービス(QCaaS)事業は41%成長を遂げ、量子クラウドの収益基盤拡大が続いている。特にNTTドコモとのパイロットプロジェクトでは、ネットワーク最適化に成功し、日本全土への展開も視野に入るなど、量子技術の商業化で具体的成果を重ねる。
ウォール街ではD-Waveの売上が2025年に1,647万ドル、2026年には3,500万ドルへ倍増すると予測されており、持続的収益化の道筋に注目が集まる。独自技術を武器に限られた資本で成長を目指すD-Waveは、ハイリスクながら将来性を見込んだ投資家にとって重要な銘柄となり得るだろう。
D-WaveのQ4決算が示す量子コンピューティング事業の現状と財務構造の変化

D-Wave Quantum(QBTS)が2024年3月13日に予定する2023年第4四半期決算では、売上223万ドル、前年同期比23.4%減という厳しい数字が予測されている。2024年通期売上は875万ドルと見込まれ、2023年実績の876万ドルから横ばいに留まる見通しである。売上減少の背景には、量子コンピューティング・アズ・ア・サービス(QCaaS)事業の成長をプロフェッショナルサービスの大幅縮小が打ち消す構造が影響している。
特に2023年Q3時点でQCaaSの売上は前年同期比41%増加し160万ドルに達する一方、プロフェッショナルサービスの売上は80%減少し30万ドルまで落ち込んだ。D-Waveはこの分野で強い受注を確保したものの、即時の売上貢献には至っておらず、事業ポートフォリオのバランスが課題となっている。
同社の財務構造にも変化が見られる。2023年Q3には5,000万ドルの担保付タームローンを完済し、期末時点で保有現金は3,000万ドルに減少した。資金繰りの安定化と並行し、2024年通期の調整後EBITDA損失見通しを5,430万ドル未満とするガイダンスを維持しており、事業拡大と収益改善を同時に追求する構えである。
事業モデルの変遷と財務改善への取り組みは、D-Waveが量子コンピューティング分野で商業化を進める上で不可避のプロセスといえるが、プロフェッショナルサービスの低迷が長期化すれば、成長戦略全体に影響を及ぼすリスクも否定できない。
NTTドコモとの量子最適化実証が示す商業化への布石とD-Waveの技術的優位性
D-WaveがNTTドコモと進めた量子最適化パイロットプロジェクトでは、3つの日本地域において携帯通信ネットワークの渋滞を15%削減する成果を挙げた。古典的な計算手法では27時間を要する最適化計算を、D-Waveの量子ソルバーがわずか40秒で完了するなど、計算速度と実用性を兼ね備えたソリューションとしての実力を証明している。NTTドコモが全国規模で本格導入を検討することは、D-Waveの技術的優位性と商業化の可能性を示唆する重要な事例といえる。
また、D-Waveが提供するLeap量子クラウドサービスには、正式なサービス品質保証(SLA)が適用されており、量子コンピューティング分野で99.9%以上の稼働率を維持する体制を構築している。SLAを導入した量子コンピューティング企業はD-Waveのみであり、この点が競合他社との差別化要因にもなっている。
D-Waveは第6世代アニーリング型量子コンピュータ「Advantage 2」の商用化に向けた最終調整も完了しており、4,400量子ビット、コヒーレンス時間2倍、エネルギースケール40%向上など、技術面での飛躍的進化が見込まれる。ネットワーク最適化や材料科学、AI分野などへの応用可能性が広がる中で、量子アニーリング技術の商業価値をいかに高めるかが今後の成長を左右する。
D-Waveは高い技術力と実績を有する一方で、クラウド事業を中心に安定収益化への道筋を築きつつあるが、市場全体の成長速度や競合の動向次第では、さらなる技術革新と商業化スピードの加速が不可欠となるだろう。
株価上昇期待とウォール街の評価が映すD-Waveの成長ストーリー
D-Waveの株価は依然低迷しているものの、ウォール街では2025年売上1,647万ドル、2026年3,500万ドルと売上倍増を見込む強気の予測が目立つ。特に2025年以降の1株当たり損失縮小が期待され、2024年の0.32ドルから2025年には0.23ドル、2026年には0.20ドルへと改善する見通しである。この収益改善と売上成長を背景に、目標株価は7.67ドルと現在の株価から50%以上の上昇余地が見込まれている。
アナリスト6名のうち5名が「強い買い」、1名が「適度な買い」を推奨するなど、ウォール街の評価は極めて良好である。D-Wave自身も「持続的な収益性を実現する初の独立系上場量子コンピューティング企業になる可能性」を強調しており、競合他社より少ない資金で商業化を達成するという自信を示している。
ただし、プロフェッショナルサービス事業の不振や、量子コンピューティング市場自体の成長速度が想定を下回るリスクは無視できない。D-Waveが掲げる成長ストーリーには、NTTドコモとの成功事例を軸とした新規顧客獲得や、Advantage 2の商業化による技術的リードの維持など、複数の要素が複雑に絡み合っている。
現在の株価には、こうした潜在的な成長余地とリスクが織り込まれ切っていない可能性がある。量子コンピューティング市場全体の動向とD-Wave独自の事業戦略が、今後の株価形成に大きな影響を与えることになるだろう。
Source: Barchart.com