AI市場の主役としてNvidiaが注目を集める中、著名バリュー投資家ビル・ナイグレン氏が示した視点が市場に一石を投じている。同氏は、AI関連の長期的な勝者はハードウェアメーカーではなく、AIを自社ビジネスに組み込み競争優位性を築く企業である可能性を指摘する。その筆頭として挙げられたのが、金融サービス大手キャピタル・ワン・ファイナンシャル(COF)と通信大手チャーター・コミュニケーションズ(CHTR)である。

キャピタル・ワンは信用審査や不正検知、顧客対応にAIを活用し、安定した業績とともに2025年には前年比12.11%のEPS成長が予測される。通信事業のチャーター・コミュニケーションズもAIを通じたコスト削減とサービス向上を実現し、AI活用の先進企業として位置付けられる。過去の技術革命でも最終的な勝者はハードウェアではなく新技術を活かした企業だった歴史が、ナイグレン氏の見解を裏付ける。


AI活用戦略が評価されるキャピタル・ワン ファイナンスとテクノロジーの融合による競争力強化


キャピタル・ワン・ファイナンシャル(COF)は、クレジットカード、個人銀行業務、自動車ローンを手掛ける大手金融サービス企業であり、バージニア州マクリーンに本社を構える。時価総額は765億ドルに達し、AIを積極的に取り入れた業務改革により、業界内での存在感を一層高めている。

特に注目すべきは、AIによる詐欺検知システムや高度な信用スコアリングモデルである。膨大な取引データをリアルタイム解析し、リスク判定の精度向上と与信判断の迅速化を実現した。また、カスタマーサービス領域でもAIを活用し、顧客対応の自動化やパーソナライズ化が進展している。

2024年第4四半期には1株当たり利益(EPS)が3.09ドルとなり、市場予想を16.17%上回る好決算を記録した。2025年のEPSは前年比12.11%増の15.65ドルが見込まれ、2026年も16.10%増加する予想である。AI活用による効率化と収益力向上は、持続的な成長基盤を形成する重要要素となっている。

過去の技術革新においても、新技術を事業モデルに組み込んだ企業が長期的な勝者となる傾向があった。キャピタル・ワンも同様に、AIを単なるツールにとどめず、収益構造やリスク管理全体に組み込むことで競争優位性を高めている。投資家にとっても、PER12.6倍、P/S比率1.39倍と、現時点の評価には割安感が残る。

NvidiaをはじめとするAIハードウェア企業が脚光を浴びる一方で、金融業界におけるAI活用モデルは、長期的な視点で見逃せない投資テーマといえる。


通信大手チャーター・コミュニケーションズ AIによるコスト削減と顧客体験向上の最前線

チャーター・コミュニケーションズ(CHTR)は、Spectrumブランドを掲げ、全米で通信・ブロードバンド事業を展開する業界大手である。コネチカット州スタンフォードに本社を構え、時価総額は517億ドルに及ぶ。通信インフラを支える中核企業として、AIを活用した業務改革を加速している。

AIによる業務効率化とコスト削減は、チャーターの経営戦略の柱のひとつである。ネットワーク運用の最適化や障害予測、カスタマーサービスの自動化など、幅広い領域にAIを導入している。特に、AIを活用したトラブルシューティングは、従来型の対応より迅速かつ的確であり、サービスの安定供給にも寄与している。

2024年第4四半期の1株当たり利益(EPS)は10.10ドルとなり、市場予想を5.87%上回る堅調な業績を示した。2025年にはEPSが前年比9.12%増加する見通しであり、着実な成長軌道にある。加えて、PERは9.41倍と業界平均を下回り、P/S比率も0.93倍にとどまるなど、投資妙味がある水準といえる。

AIを積極活用する通信企業はまだ限られており、チャーターが先駆的なポジションを築いていることは注目に値する。AIによるオペレーション効率化は収益構造改善に直結するだけでなく、顧客体験向上にもつながる。通信サービスの品質向上が顧客基盤の維持・拡大につながる点も、AI活用の重要な側面といえる。

AIが産業構造を根底から変える中で、ハードウェアに依存しない成長モデルを構築するチャーターの戦略は、投資家の関心を集め続ける可能性がある。


AIハードウェアとAI活用企業 成長モデルの分岐点と投資視点

Nvidiaに代表されるAIハードウェアメーカーは、生成AIの爆発的な需要を背景に急成長を遂げてきた。しかし、技術革新の歴史が示す通り、最終的な勝者は新技術を活かし事業モデルを強化する企業に移りゆく傾向がある。ビル・ナイグレン氏が示す「AI活用企業」への視点は、まさにこの歴史を踏まえたものといえる。

キャピタル・ワンやチャーター・コミュニケーションズは、AIを単なるコスト削減手段としてではなく、事業基盤そのものを変革する戦略を採る。特に、金融や通信のような大量データを扱う分野では、AIによる効率化やサービス高度化が競争力の源泉となる。これは単なる技術導入ではなく、企業価値向上に直結する構造転換に近い。

過去を振り返れば、インターネット革命の勝者はハードウェア企業ではなく、新技術をビジネスモデルに組み込みサービス革新を実現した企業だった。Amazon、Alphabet、Metaといった企業がその典型例である。AI時代も同様の構図が繰り返される可能性は否定できない。

短期的にはAI半導体需要の拡大が続くが、中長期視点ではAIを戦略的に活用し、新たな競争優位性を確立する企業が市場の主役に躍り出る展開が想定される。ハードウェアから活用企業への視点転換は、次世代の投資テーマを考える上で欠かせない視点となるだろう。


Source: Barchart