グラフィックカード市場を90%のシェアで支配するNvidiaが、AIアクセラレーター販売を最優先し、ゲーム用GPU供給を後回しにする戦略へと傾斜している。この構造的な変化により、ゲーム向けGPU市場には供給不足と価格高騰という歪みが生じ、ゲーマー層が新たな選択肢を求め始めた。
AMDは、この市場の隙間を突くべく、RX 9000シリーズを軸に巻き返しを図る構えである。3月に投入するRX 9070とRX 9070 XTは、NvidiaのRTX 5070を意識した価格設定としつつ、16GBのメモリ搭載や最大40%の性能向上を謳い、コストパフォーマンスで優位に立つ戦略を打ち出した。
さらに、FidelityFX Super Resolutionの強化版やレイトレーシング性能の大幅改善もアピールし、これまでNvidiaが独占してきた技術優位性を縮小させる狙いがある。NvidiaのAI依存によるゲーム用GPU市場の空白が拡大する中、AMDがこの好機を生かしシェアを奪還できるかが注目される。
NvidiaのAIシフトが引き起こすゲーム向けGPU市場の供給不安と価格高騰

Nvidiaは2025年度第4四半期において、データセンター事業の売上がゲーム部門の約14倍に達し、AIアクセラレーターが同社の主力事業へと完全にシフトした。AI関連の爆発的な需要に対応するため、NvidiaはTSMCの製造キャパシティを高価格のAIアクセラレーターに優先配分しており、ゲーム用グラフィックカードの供給は著しく制限されている。
特に、2025年初頭に発表されたNvidiaのRTX 50シリーズでは供給不足が顕著となり、販売価格はメーカー希望小売価格(MSRP)を大幅に上回る状況が続いている。さらに、初期出荷モデルにはハードウェアの欠陥やソフトウェアのドライバートラブルが相次ぎ、ユーザーからの信頼低下も懸念材料となっている。
Nvidiaの戦略転換はAI分野での収益機会拡大を狙ったものだが、その一方でゲーム向け市場の安定供給を犠牲にしている構図が見え始めている。AIブームが続く限り、Nvidiaがゲーム市場への関与を優先度の低いものと位置付ける可能性は否定できず、供給不安が継続する中でAMDを含む競合他社にとって新たな商機が生まれつつある。
AMDがRX 9000シリーズで狙うNvidiaの空白地帯と競争優位性への布石
AMDは2025年3月、ゲーマー向けの新モデル「RX 9070」「RX 9070 XT」をそれぞれ549ドル、599ドルで投入し、NvidiaのRTX 5070と真っ向から競合する価格戦略を打ち出した。両モデルには16GBのグラフィックメモリを搭載し、RTX 5070の12GBを上回る仕様で、ゲーマー層への訴求力を強化している。
性能面では前世代比で最大40%のゲームパフォーマンス向上を掲げ、価格と性能の両面でバランスを取ることで、ミドルレンジ市場での存在感を高める狙いがある。さらに、FidelityFX Super Resolutionの新バージョンやフレーム生成機能の強化によって、これまでNvidiaが優位性を維持してきた画像補完技術やレイトレーシング対応力でも巻き返しを図る。
Nvidiaがハイエンド市場に注力する中で、Steamのハードウェア調査が示すように市場の主流はミドルレンジ帯に集中している。AMDは、価格競争力と十分な性能を兼ね備えたRX 9000シリーズを大量供給できれば、Nvidiaが空けた隙間を確実に埋めることができる環境が整いつつある。
Nvidia優位のレイトレーシング分野にも本格参入 技術面での対抗策強化
長らくNvidiaの牙城とされてきたレイトレーシング分野に対し、AMDはRX 9000シリーズで技術面の大幅な底上げを図った。AMDは各コンピュートユニットあたりのレイトレーシング処理能力が前世代比で2倍以上に強化されたと公表しており、過去の弱点克服に向けた取り組みが本格化している。
レイトレーシングは光の反射や屈折をリアルタイムで再現する高度な技術であり、NvidiaはDLSSとの連携により視覚品質とパフォーマンスを両立させる仕組みを確立してきた。一方、AMDはFidelityFX Super Resolution(FSR)のAI活用型アップスケーリング技術と連携させることで、レイトレーシングによる描画負荷を軽減しつつ高精細な映像体験を目指している。
この技術的進化は、単なるスペック競争にとどまらず、AIアクセラレーター搭載によるゲーム体験の向上や、価格性能比を重視する層への浸透を狙う戦略とも位置付けられる。レイトレーシング分野においても、AMDがコスト面で優位に立ちながらNvidiaとの差を縮めることができれば、市場勢力図にも一定の変化が生じる可能性がある。
Source: The Motley Fool