インテルは、企業向けプロセッサの製造履歴をデジタルで証明可能とする新たなプログラム「Assured Supply Chain for Enterprises」を発表した。2025年後半から2026年初頭にかけてデル、HP、レノボなど主要パートナー企業と共に展開を予定し、対象となる商用プロセッサには「A」の識別番号が付与される。
対象チップは「Core Ultra 200V」「200U」「200H」「200S」「200HX」などで、Lunar LakeおよびArrow Lakeアーキテクチャを基盤とする。リアルタイム追跡により、企業は特定製造拠点での生産状況や輸入時の物流障害を把握できる可能性がある。
このプログラムの背景には、サプライチェーンの透明性確保と信頼性向上への要請があると考えられるが、インテルから詳細な動機や具体的なプロセスは明かされていない。インテルとパートナー企業は2025年内に150以上のデザインを10社以上から市場投入する計画であり、今後の企業調達やリスク管理に与える影響は無視できない。
インテルが2025年から開始するAssured Supply Chainの概要と対象プロセッサの詳細

インテルは2025年後半から2026年初頭にかけて、新たな企業向けプログラム「Assured Supply Chain for Enterprises(ASC)」を本格始動させる。デル、HP、レノボといった主要PCメーカー10社以上と連携し、150を超える新デザインの製品に対応プロセッサを搭載する計画である。ASCに対応するプロセッサは、製品番号に「A」が付与される特別仕様で、企業がチップ単位で製造履歴を確認できる仕組みを備える。
対象プロセッサとして名を連ねるのは「Intel Core Ultra 200V」「200U」「200H」「200S」「200HX」の5シリーズである。これらはインテルの最新アーキテクチャ「Lunar Lake」および「Arrow Lake」を基盤として設計され、すでにコンシューマー市場向けに展開済みのモデルを商用向けに最適化した形となる。ただし、今回発表された商用チップの具体的な型番リストや、vProプラットフォームに関する新機能は明らかにされていない。
インテルは従来から、企業向け製品にセキュリティ機能やリモート管理機能を付加する「vPro」ブランドを展開してきたが、ASCプログラムはサプライチェーン全体の可視化と信頼性向上に主眼を置く点が新しい。特に製造履歴をデジタル証明可能とする仕組みは、これまで物流や製品管理で部分的に導入されていたが、プロセッサ単位での全工程追跡という取り組みは極めて先進的なものとなる。
サプライチェーンの透明性強化とリスク低減に向けた新たな取り組み
インテルが推進するAssured Supply Chainプログラムは、単なるプロセッサの製造履歴管理にとどまらず、サプライチェーン全体の透明性強化とリスク低減に直結する可能性を持つ。特定のインテル製造拠点やサプライヤーで製造されたチップが、どのタイミングで、どのルートを経て企業に届くのかを可視化することが想定される。これは、FedExや米国郵便公社などが提供する荷物追跡システムと同様の仕組みを、半導体製品に適用するものである。
サプライチェーンの透明性確保は、地政学リスクの高まりや貿易摩擦、サプライヤーの倒産リスクなどが企業調達戦略に与える影響を最小化するために欠かせない要素である。特に半導体は、単一部品の供給途絶が全体の生産停止につながる恐れがあるため、部品の出所や流通状況をリアルタイムで把握するニーズが高まっている。ASC対応チップは、輸出入における関税トラブルや通関遅延といったリスクを可視化することで、企業のリスク管理体制強化にも寄与するだろう。
一方で、インテルはASCプログラムの具体的な導入背景や、企業がどこまでの情報にアクセス可能となるのかについて、詳細な説明を避けている。この点は、競合他社との技術競争上の戦略的意図とも考えられるが、情報開示範囲の限定が逆に透明性確保の足かせとなる懸念も残る。サプライチェーン管理の高度化は今後さらに加速する見通しであり、インテルの動向は業界全体に波及する可能性もある。
半導体市場と企業調達戦略への影響と新たな課題
インテルが2025年から導入するAssured Supply Chainプログラムは、企業にとって調達先の信頼性やサプライチェーンリスク管理を強化する新たな手段となる可能性がある。特に地政学リスクや供給網分断リスクが高まる中で、プロセッサ単位の追跡が可能となることは、半導体サプライチェーン全体の信頼性向上につながると期待される。
一方で、ASC対応プロセッサは「選ばれた一部のチップ」に限定されるため、企業のシステム全体をカバーするには限界があると考えられる。特に複数メーカーから調達するマルチベンダー構成や、旧世代チップを引き続き活用するシステムでは、ASCプログラムの恩恵を全面的に享受することは難しい。
さらに、ASCプログラムの実効性を担保するためには、インテル自社だけでなく、関連する製造パートナーや物流事業者との連携が不可欠となる。情報連携の範囲や精度が不透明なままでは、企業側に過度な負担が生じる可能性も否定できない。ASC対応プロセッサの普及状況や、企業の調達・リスク管理戦略に与える影響は、2025年以降の実運用を通じて慎重に見極める必要がある。
Source: PCWorld