テスラの株価が2024年2月に28%急落し、3月も続落する中、時価総額は8,750億ドルに縮小した。過去最高値から44%下落した背景には、自動車販売の伸び悩みと価格引き下げによる収益悪化がある。特に第4四半期決算では、自動車関連売上が前年同期比8%減、営業利益も23%減と低迷が続いており、北米の関税問題や欧州の販売不振も影響を及ぼしている。
一方、モルガン・スタンレーのアダム・ジョナス氏は、AIとロボティクスへの積極投資を評価し、テスラを米国自動車セクターの最優良銘柄に選定。現在の株価から40%以上の上昇余地を見込み、目標株価を430ドルに設定している。AIによる完全自動運転やヒューマノイドロボット「オプティマス」の量産計画も強気見解の根拠とされるが、市場には規制や技術的課題を懸念する声も多い。
売上と利益率の低下、政治的リスクの高まり、自動運転技術での競争力後退など、多くの課題を抱えるテスラ株だが、AI・ロボティクス関連事業への期待感と、EVメーカーからの事業構造転換が将来評価に大きく影響すると考えられる。
テスラ株の急落と第4四半期決算が示す実態

テスラ株は2024年2月に28%の急落を記録し、3月も続落する中で過去最高値から44%下落した。時価総額は8,750億ドルまで縮小し、2022年12月以来となる月間下落率を記録している。この背景には、2023年10月〜12月期に発表された第4四半期決算が関係しており、主要事業である自動車部門の売上が前年同期比8%減少した事実が重くのしかかる。加えて、販売価格引き下げにより営業利益も23%減少し、コスト競争力の維持に苦しむ構造が鮮明になった。
また、ドナルド・トランプ前大統領が推進する対カナダ・メキシコ新関税政策も影響を与えている。両国はテスラにとって重要なサプライチェーンを形成しており、関税強化による部品調達コスト上昇は避けられない。さらに欧州市場では販売台数が急減しており、特に2024年1月のドイツでは前年比約60%減という厳しい状況に直面している。
こうした事実を踏まえると、足元のテスラ株急落は一過性の動きにとどまらず、主力事業である自動車部門の収益力低下を市場が冷徹に織り込んだ結果と考えられる。イーロン・マスク氏の楽観的な成長見通しとは裏腹に、世界各地での販売減や価格競争の激化、政治リスクなど、構造的課題がテスラの実態として浮き彫りになっている。
AI・ロボティクス転換戦略に対するモルガン・スタンレーの評価とその背景
モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナス氏は2024年3月、テスラを米国自動車セクターにおける最優良銘柄に選定した。その理由として、テスラが近年積極的に投資を進めるAIおよびロボティクス関連事業を主要な成長ドライバーと評価している。自動運転技術「FSD(Full Self-Driving)」は2025年6月までに監視なしの完全自動運転をオースティンで開始する計画で、すでにフリーモント工場では数千台の自動運転車両が稼働している。
加えて、ヒューマノイドロボット「オプティマス」についても2025年には数千台規模で生産を開始する計画を掲げ、長期的には10兆ドル規模の収益源になる可能性があるとするマスク氏のビジョンに一定の評価を示している。ジョナス氏は現在のテスラ株価から40%以上の上昇余地があると分析し、目標株価を430ドルに設定した。
ただし、AIとロボティクスへの急激なシフトには技術的ハードルや規制面の障壁が存在し、特に自動運転分野ではAlphabet傘下のWaymoが米国主要都市で週20万回のライドを提供するなど、競争環境は激化している。テスラがEVメーカーから多角化企業へと変貌を遂げる過程で、一時的な収益減少や市場シェア後退は避けられず、この戦略転換が実際に成果をもたらすかは現時点では不透明な部分も多い。
イーロン・マスクの政治的影響力拡大とテスラの企業価値への影響
近年、イーロン・マスク氏は政治的発言や政策介入を強め、米政府内に「政府効率化省(Department of Government Efficiency:DOGE)」を設立し、自らが主導する立場にある。この新組織は政府支出削減や効率化を目的としているが、同時にマスク氏が経営するテスラやスペースXなどへの政府契約誘導を図っているとの見方もあり、企業統治と政策介入の境界が曖昧になりつつある。
こうした動きは、テスラに対する政治リスクを高める要因と捉えられる。特に民主党との対立構造が強まる中で、テスラに対する補助金や政策的優遇措置が縮小する可能性も指摘されており、マスク氏の政治的発言が株価の下押し要因となる場面が増えている。また、欧州ではマスク氏の政治的スタンスが嫌悪感を招き、消費者離れを加速させる要因にもなっている。
他方で、マスク氏が掲げるビジョンや政策への関与が、テスラの技術革新や事業拡大に資する側面も否定できない。政府機関との緊密な関係構築により、AIや自動運転技術分野で規制緩和を引き出す可能性もあり、マスク氏の政治的立ち位置がテスラの成長戦略に与える影響は一概に否定できない。政治的リスクと政策活用の両側面を抱え込む中で、マスク氏の動向がテスラの企業価値に与える影響は今後さらに増大すると考えられる。
Source:Barchart.com