2023年から2024年にかけて米国市場を牽引したAI相場は終焉を迎え、投資マネーは中国ハイテク株に流入する構図が鮮明となった。これに伴い、マイクロソフト株は2024年7月の高値更新に失敗し、「マグニフィセント7」の中でも最も低調なパフォーマンスに沈んだ。AI関連投資の収益化遅れや減価償却負担の増加に加え、OpenAIへの巨額投資を巡る先行き不透明感が、投資家心理を冷やす要因となった。
一方で、足元の株価調整によりバリュエーションは過去平均を下回り、防御的な収益構造への再評価が進む可能性もある。2025年度の設備投資抑制と2026年度の利益成長加速予測は、長期的なキャッシュフロー増加と株価上昇余地を示唆している。アナリスト予想も依然強気が大勢を占め、52週安値を起点とした反発のタイミングが注目される。
マイクロソフト株を取り巻く逆風要因 AI投資戦略と市場環境の変化

マイクロソフト(MSFT)の株価が2024年7月以降、低迷を続けている背景には、同社の積極的なAI関連投資とそれに対する市場の評価ギャップが大きく影響している。OpenAIへの140億ドル規模の投資をはじめ、データセンターを中心としたインフラ整備や生成AI技術の強化に莫大な資金を投じてきたが、これらの投資が売上や利益の加速的な成長には直結しておらず、市場からの懸念材料となった。
特に2024年以降は中国発のAIモデルであるDeepSeekが超低コストモデルを相次ぎ投入したことで、AI技術のコモディティ化が加速し、マイクロソフトの生成AI戦略の優位性が揺らぎ始めている。OpenAIのモデル価格にプレミアムを維持することが難しくなるとの見方も強まり、同社が進めるAI関連事業の採算性への不安が、株価の重石として意識されている。
加えて、2024年度の決算発表後には3四半期連続で株価が下落しており、投資家の信認回復には一定の時間を要する状況である。さらに、2025年3月4日には52週安値を記録し、AI相場失速と競争環境の厳格化が改めて意識された。これらを踏まえると、マイクロソフトのAI投資は依然として不可欠な成長戦略であるものの、その投資回収スピードや利益貢献度に対する市場の視線は一段と厳しくなっている。
高バリュエーションからの調整局面と多様化した収益基盤の再評価
マイクロソフトの株価は、AIブームによる先行期待の高まりを背景に、「マグニフィセント7」の一角として2023年から2024年初頭にかけて高バリュエーションに位置していた。特に、AI分野への積極投資とクラウド事業の拡大期待が重なり、2024年7月には過去最高値圏に到達したが、その後の株価推移は一転して調整局面を迎えることとなった。
足元のPER(株価収益率)は29.7倍と、過去5年平均を下回る水準まで低下しており、過熱感は大きく後退している。この背景には、AI投資の収益貢献の不透明さや、生成AI競争の激化による競争優位性への疑問が影響していると考えられる。しかし、同社の事業構造はAI依存に偏っているわけではなく、WindowsやOfficeを軸とする既存ビジネスの収益基盤に加え、クラウド、広告、ゲーム、LinkedInといった多様な事業ポートフォリオが支えている点は見逃せない。
特に景気循環の影響を受けにくいビジネスモデルと安定したキャッシュフロー創出力は、他の「マグニフィセント7」銘柄と一線を画す特徴とも言える。2026年度には設備投資成長率の鈍化と利益成長の加速が予想される中、現在の株価水準は中長期的な投資機会として再評価される可能性が十分残されている。
Source:Barchart