世界最大のスポーツウェア企業Nikeは、2025年3月20日の第3四半期決算を控え、投資家の注目を集めている。特にJefferiesは目標株価を37%引き上げ、新CEOエリオット・ヒルの下での事業再構築に期待を寄せる。ヒルは2024年10月の就任以来、ブランド力強化を軸に、製品イノベーションとプレミアム価格戦略への転換を打ち出している。
若年層のブランド忠誠心やグローバルな販売網を強みとしながらも、過去数年はデジタル販売偏重や値引き戦略の弊害に苦しんだNike。再構築戦略では、スポーツへの原点回帰やパートナーシップ強化を通じた長期成長を目指す。
業績低迷が続く中、株価は2026年予想利益の38.6倍と割高感も残るが、自社株買いや配当増配を通じた株主還元策は魅力的な水準にある。ウォール街の平均目標株価は84.23ドルに設定されており、Nikeの再成長を見極める局面が続く。
エリオット・ヒルCEOが描くNike再構築の全貌と事業戦略の転換点

Nikeは2024年10月にエリオット・ヒルを新CEOに迎え、事業全体の見直しに着手した。ヒルは、同社が近年スポーツへの情熱を見失い、ブランド本来の価値を損ねてきた点を強く問題視し、スポーツ起点の製品開発への回帰を掲げた。特に、トップアスリートの声を積極的に取り入れ、機能性と競技パフォーマンスに特化した新商品の開発を加速させる構えである。
加えて、デジタル販売への過度な傾斜が価格政策に歪みをもたらしたと認識し、プレミアム価格戦略への再転換も重要施策に据える。過剰な値引き販売を抑制し、ブランド価値を損なわない価格帯の維持と販路再構築により、収益基盤を立て直す狙いがある。
ヒルの再構築策は、単なる業績回復に留まらず、Nikeの存在意義を再定義し、ブランドの長期的競争力を強化する意図が色濃い。Jefferiesが「買い」に格上げした背景には、ヒルのこうした方針と戦略に対する評価が大きく影響していると考えられる。
収益低迷と株主還元策の両立が求められるNikeの財務状況と市場評価
2025会計年度第2四半期のNikeは、売上高が前年同期比8%減の124億ドル、希薄化後1株利益(EPS)が24%減の0.78ドルと業績低迷が鮮明だった。売上総利益率は43.6%にとどまり、インフレ圧力や供給網の混乱も依然として収束していない。3月20日に発表予定の第3四半期決算では、売上高110億ドル、EPS0.29ドルとさらに減収減益が見込まれ、通期業績も前年比10.4%減と厳しい数字が予想されている。
一方で、配当利回りは2.1%と消費者裁量セクター平均を上回り、過去23年間の連続増配実績も維持している。2024年11月には四半期配当を1株0.40ドルへと8%引き上げ、株主還元策の一環として11億ドル規模の自社株買いも計画通り進めている。安定配当を重視する投資家層からの評価は一定の支持を得ている。
ただし、現行株価は2026年予想利益の38.6倍と割高感が否めず、成長戦略の成果が明確に示されなければ市場の信認回復には至らない。Jefferiesやバーンスタインの強気見通しに対し、ウォール街全体では「中立的な買い」という慎重な評価が支配的であり、Nikeは依然として分岐点に立たされている状況である。
Source:Barchart.com