台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)が、米国半導体生産基盤の大規模強化に向け、総額1650億ドル規模の投資計画を進めている。アリゾナ州フェニックスに3つの新工場を建設し、先端パッケージング施設や研究開発センターも整備する方針で、AIや5G分野の需要増に対応しつつ地政学リスクへの備えも狙う。
背景には、米国政府がCHIPS法を通じて半導体産業の国内回帰を促進し、巨額の補助金を投じる政策転換がある。2024年第4四半期にはAIチップ需要を追い風に過去最高益を記録し、株価はこの投資計画発表後に6%上昇。アナリストの平均目標株価は244.50ドルに設定され、現在値から37.5%の上昇余地が示唆される中、投資判断に注目が集まる。
先端プロセスへの巨額投資や、3nm・2nm製造技術の加速も成長を支える要素とされるが、輸出規制や生産コスト増といった不確定要素を抱え、今後の戦略実行力が問われる展開となる。
TSMCの1650億ドル投資が示す米国半導体戦略と工場拡張の全容

台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)は、米国半導体生産基盤の強化に向け、アリゾナ州フェニックスを中心に1650億ドルの投資を計画している。この中には、3つの最先端工場の新設に加え、2カ所の先端パッケージング施設や研究開発センターの整備も含まれ、AIや5G向けの高性能チップ供給力を強化する狙いがある。
2022年に成立したCHIPS法による補助金政策がこうした投資を後押ししており、TSMCは米国政府の方針とも整合する形で、現地生産を通じた供給網強化と地政学リスク低減を模索している。さらに、AI革命の進展に伴い、NvidiaやAppleなど米国IT大手からの高性能チップ需要が急増している現状も、米国での生産拡張を後押しする背景にある。
一方、TSMCにとって米国工場の生産コストは台湾に比べ高く、収益面での圧迫要因となる可能性は否定できない。先端プロセスへの集中投資が競争力強化につながるかどうかは、米国工場の稼働率や歩留まり改善の進捗に大きく左右される構図であり、今後の経営判断にも注目が集まる。
AI需要急拡大を背景に加速するTSMCの技術優位と米中対立下でのリスクヘッジ戦略
TSMCは2024年第4四半期に過去最高の売上高と利益を記録し、特にAIマイクロチップや5G関連プロセッサーの需要急増が業績拡大をけん引した。売上高は269億ドル、前年同期比38.8%増という高い伸びを見せ、EPSも2.24ドルへと57%増加。AIや高性能コンピューティング(HPC)分野の売上構成比が53%に達し、先端技術への依存度が一段と高まっている。
TSMCは3nmプロセスの量産体制を確立し、2nm製造にも着手。先端プロセスがウェーハ売上高の74%を占める構造は、他社を大きく引き離す技術優位の象徴といえる。一方で、米国の輸出規制強化が中国市場への供給に影響を及ぼすリスクも抱え、米国と台湾、さらには日本にまたがる生産拠点拡張によってリスク分散を進めている。
この多拠点戦略は、半導体供給網の安定確保を目指す米国政府の政策とも合致するが、同時に中国市場をどう位置付けるかというTSMCの経営戦略にも直結する。米中対立が長期化する中、TSMCがどこまで柔軟に対応し、技術力を維持・強化できるかが、中長期的な成長と収益基盤を左右する重要な鍵となる。
アナリストが評価するTSMC株の将来性と高まる米国投資のリスクと機会
TSMC株は2024年、AI関連銘柄としての評価が高まり、52週で25%上昇するなど堅調なパフォーマンスを見せている。特に1,000億ドルの米国投資計画発表後には株価が6%上昇し、ウォール街アナリストの目標株価は平均244.50ドルと現在価格から37.5%の上昇余地が示されている。バークレイズは目標株価を255ドルまで引き上げ、「オーバーウェイト」評価を継続。バンク・オブ・アメリカ・セキュリティーズのブラッド・リン氏も250ドル目標を提示し、強気な見方を示す。
TSMCの予想PERは19.57倍、PEGレシオは0.59と割安感があり、安定した配当実績と先端技術を背景に、成長性と収益力の両面で評価されている。一方、米国工場の建設・運用コストは台湾に比べ高く、補助金を含めても採算確保には課題を抱える。先端パッケージングやAIチップ製造に不可欠な高度技術の維持には、多額の研究開発費と高歩留まりの両立が欠かせない。
TSMCの強みは、AI革命を支える不可欠な供給者としての地位にあるが、その地位を維持するには技術革新とコスト競争力の確保が不可避である。AI需要と地政学リスクが交錯する中、TSMCの米国投資は戦略的機会とともに、新たなリスク管理の試金石ともなる。
Source:Barchart.com