テスラが独自開発を進めるAIトレーニング用スーパーコンピュータ「Dojo」が、完全自動運転(FSD)やヒューマノイドロボット「オプティマス」の実現を左右する鍵として、投資家から高い関心を集めている。Dojoは自社設計のD1チップを基盤とし、Nvidia製GPUへの依存を低減する戦略的狙いも持つ。

2021年の「AI Day」で正式発表されたDojoは、世界中のテスラ車両から収集した走行データを処理し、高度な運転判断や物体認識を支える。さらに米国バッファローのギガファクトリーに5億ドルを投じ、Dojo専用設備を整備するなど、計算資源の完全内製化に向けた動きも加速している。

モルガン・スタンレーは2023年9月のレポートで、Dojoが企業価値を約5,000億ドル押し上げる可能性を指摘。2023年第4四半期の業績は予想を下回るも、堅調な財務基盤を維持するテスラにとって、AI基盤構築とデータ処理能力の強化が競争優位を築くカギを握るとの見方も根強い。



テスラが構築するDojoスーパーコンピュータの全貌と自社設計D1チップの技術的背景

テスラが推進するDojoスーパーコンピュータは、完全自動運転(FSD)技術の高度化とヒューマノイドロボット「オプティマス」の知能強化を支える中核インフラである。2021年のAI Dayで初めて正式にその存在が発表され、特に注目を集めたのが自社設計のAIトレーニング専用チップ「D1」の存在であった。このD1チップはTSMCが製造を担い、500億個ものトランジスタを搭載した大規模半導体として、機械学習の演算性能を飛躍的に引き上げる役割を果たす。

D1チップは25個単位で統合され「コンピューティングタイル」を形成し、これを複数連結した「ExaPOD」がDojoの基本構成単位となる。膨大な視覚データを効率的に処理するこの仕組みにより、テスラは自社運用のAIインフラ基盤を構築し、他社に依存しないデータ処理体制を整えつつある。これまでNvidia製GPUが担ってきた処理を、自社設計チップによって低コスト化し、機械学習の最適化を進める狙いが明確になっている。

Dojoの存在意義は単なる自動運転技術の強化にとどまらない。車両からリアルタイムで収集する走行データを膨大な計算能力で解析することで、安全性向上や新機能開発の速度を加速させる。また、FSDのみならず、ロボティクスや将来的なデータセンターサービスとして外部提供の可能性まで視野に入れることで、AI企業としてのテスラの存在感を一層際立たせる布石ともなっている。


モルガン・スタンレーの5,000億ドル評価の背景とテスラの財務基盤が示す長期戦略の布石

2023年9月にモルガン・スタンレーが発表したレポートでは、Dojoスーパーコンピュータがテスラの企業価値を約5,000億ドル押し上げる可能性が指摘された。完全自動運転(FSD)をはじめとするAI関連事業が持つポテンシャルに対し、市場が与える評価は依然として分かれているが、AIインフラを自社で構築する戦略が極めて大きな評価要因であることに異論はない。

2023年第4四半期決算では、売上高257.1億ドルと1株利益0.73ドルは市場予想をやや下回ったものの、前年比では2%増収、3%増益と一定の成長を維持した。車両納車台数の減少は懸念材料ではあるが、充電ステーション数やコネクター数は前年比2桁増とインフラ拡充が着実に進んでおり、事業全体としての体力は維持されている。

テスラの強固な財務基盤は、Dojoのような巨額投資を伴う先端技術開発に耐えうる裏付けとなっている。2023年末時点で366億ドルの現金を保有し、短期債務は149億ドルにとどまる。AI企業としての成長路線を志向する中で、盤石な資金力は競争優位を保つための不可欠な条件であり、リスクを取りつつ長期視点で成長機会を追求する戦略が、財務数値からも浮かび上がる。


Dojoがもたらす完全自動運転とロボティクス領域への影響と競争環境の変化

Dojoスーパーコンピュータが本格稼働すれば、テスラの完全自動運転(FSD)技術の進化速度はさらに加速するとみられる。膨大な走行データを独自チップによるリアルタイム処理で解析することで、現実世界の複雑な運転シナリオを即座に学習し、認識精度や判断能力の継続的向上が可能になる。テスラが依拠するビジュアルベースAIには、こうした映像データの即時処理が不可欠であり、Dojoはその要である。

また、Dojoが支えるのはFSDだけではない。ヒューマノイドロボット「オプティマス」にも同様のAI技術が適用され、人間の動作学習や作業適応能力の向上に直結する。自動運転とロボティクスという2つの成長領域を同一基盤で支える点は、他社にはない競争優位性となりうる。加えて、将来的にはAI計算プラットフォームとして外部提供し、クラウド事業への展開可能性も残されている。

一方、AI半導体市場におけるNvidia依存から脱却を図る動きは、供給リスク回避とコスト抑制の両面で理にかなうが、同時に自社開発半導体の歩留まりや性能面での不確実性も伴う。特に、NvidiaのGPUエコシステムが成熟する中で、Dojoが本当に優位に立てるかは依然不透明であり、テスラの自社AI基盤構築の成否は今後の事業戦略全体に影響を及ぼす可能性がある。


Source: Barchart