人工知能(AI)音声ソリューションを手掛けるSoundHound AI(ティッカー:SOUN)が、2024年通期決算報告書(Form 10-K)の提出を延期すると発表した。Nvidiaが2月に全株を売却したことに続くこの動きは、投資家の不安を一層高め、株価は発表翌日に6%下落した。
同社は買収したSynq3およびAmelia Holdingsの統合に伴う会計処理の複雑さを理由に挙げ、SECが認める15日間の延長期限内に提出する方針を示している。しかし、内部統制の「重要な欠陥(material weaknesses)」を抱える同社の財務報告の信頼性には疑問が残る。
一方で、SoundHound AIは音声認識技術で自動車・ホスピタリティ業界を中心に市場を拡大し、2024年第4四半期の売上高は前年同期比101%増の3,450万ドルを記録した。しかし黒字化は未達であり、収益性への懸念は依然として強い。年次報告書の提出状況が今後の株価動向に大きな影響を及ぼす可能性がある。
SoundHound AIの年次報告書提出遅延 2件の買収と統合による会計処理の複雑さ

SoundHound AIは2024年3月4日、通期決算報告書(Form 10-K)の提出延期を発表した。延期の背景には、2024年1月に買収したSynq3と、同年8月に買収したAmelia Holdingsという2社の統合に伴う会計処理の複雑さがあると説明している。特に、両社の財務データを統合し、正確な財務情報を作成するために必要な追加の確認作業や、各取引の処理方法に関する見直しが進められている模様である。
SEC(米証券取引委員会)の認める15日間の延長期間を活用し、3月18日頃までの提出を目指す方針であるが、この動きは市場に対して企業内の混乱や統制体制の脆弱さを想起させる可能性がある。さらに、同社は以前から内部統制上の「重要な欠陥(material weaknesses)」を抱えており、買収に伴う会計処理が同様の問題をさらに複雑化させている可能性も否定できない。
一方で、Synq3は外食産業向け音声AIシステムに強みを持ち、Amelia HoldingsはエンタープライズAI分野で一定の評価を得てきた。これらの買収によってSoundHound AIは技術ポートフォリオの拡充と顧客基盤の多様化を狙うが、これらの統合効果が想定通りに実現するかどうかは、今後の業績や財務報告の透明性に強く依存すると考えられる。
Nvidiaの全株売却と年初来48.8%下落 投資家心理への影響
2024年2月14日にNvidiaが提出した13F報告書により、SoundHound AI株を全て売却した事実が明らかとなった。2023年にはNvidiaの出資を受け、その後の株価急騰にも寄与した経緯があるが、この突然の売却は市場に衝撃を与え、株価の下落圧力を強めるきっかけとなった。実際、年初来のSOUN株は48.8%下落しており、前年の854%上昇とは対照的な推移をたどっている。
Nvidiaによる売却理由は明確に示されていないが、SoundHound AIが2024年第4四半期に1株当たり0.05ドルの調整後純損失を計上し、依然として黒字化に至っていないことが背景にある可能性も考えられる。特に、同社は今後2年間にわたり黒字化が見込まれていないとのアナリスト予測もあり、成長企業としての期待感と収益力の乖離が投資家の不安を助長している。
一方で、Nvidiaの売却がSoundHound AIそのものの事業モデルや技術競争力に対する直接的な否定を意味するとは限らない。音声AI市場における先行優位性や、メルセデス・ベンツ、ヒュンダイ、Burger King UKなどの名だたるパートナーとの関係は継続しており、同社の中長期的な成長機会そのものに対する評価は引き続き分かれるところである。ただし、短期的には財務懸念と提出延期リスクが重なり、市場の警戒感は高まる状況が続くとみられる。
内部統制の欠陥と未提示の改善策 財務信頼性への影響
SoundHound AIは年次報告書の提出延期に先立ち、内部統制に「重要な欠陥(material weaknesses)」が存在することを明らかにしている。この「重要な欠陥」とは、財務報告プロセス全体において、重大な誤りを防止・発見・修正する仕組みが十分に機能していない状況を指す。特に、買収によって財務プロセスの統合やデータ処理が複雑化する中で、この欠陥が一層深刻化する可能性がある。
さらに同社は、現時点で具体的な改善策やスケジュールを明示しておらず、財務報告の信頼性確保に向けた実効的な取り組みが見えにくい点も投資家の懸念材料となっている。過去にSuper Micro Computerが年次・四半期報告書の提出遅延を重ね、最終的には内部統制体制の強化に時間を要した事例もあり、SoundHound AIが同様の道をたどるリスクも完全には排除できない。
ただし、同社の技術力や市場優位性まで揺らいでいるわけではない。多様な産業との連携を通じた成長基盤は維持されており、2025年には売上高1億5,700万〜1億7,700万ドルと、堅調な事業拡大が見込まれている。内部統制の整備と財務報告の透明性向上が早期に実現されれば、SoundHound AIが成長企業としての信頼を取り戻す余地も残されている。
Source: Barchart.com