AMDがLinux向けに提供してきたROCm(Radeon Open Compute)のWindows対応を本格化させる可能性が浮上した。AMDのAIソフトウェア部門副社長であるアヌシュ・エランゴヴァン氏が、Windows対応への要望に肯定的な姿勢を示し、開発者からの期待が高まっている。
現在のROCmはWindows環境では限定的なGPUのみが対応しており、InstinctシリーズやRadeon RX 7900 XT / XTXが主な対象だ。最新のRDNA 4 GPUには未対応であり、動作の不安定さも指摘されている。しかし、今後のサポート拡張により、AMDのAI分野における競争力が大きく向上する可能性がある。
CUDAが支配する市場において、AMDはソフトウェア最適化とMI300Xの導入を進めることで、競争環境を変えようとしている。tinygradを活用した開発も進んでおり、Windows向けROCmの本格展開が実現すれば、AI分野の勢力図に変化が生じるかもしれない。
AMDのROCmがWindows対応を拡大する背景と現状

AMDはこれまでROCm(Radeon Open Compute)を主にLinux向けに提供してきたが、Windows環境への本格的な対応が期待されている。現在のROCmはWindows上ではInstinct GPUやRadeon RX 7900 XT / XTXなどの一部のモデルでのみ利用可能であり、ROCm 5.5.1以降のバージョンがWindows 10および11でサポートされている。
しかし、最新のROCm 6.2.4の対応は依然として限られており、多くの開発者にとっては利用のハードルが高い。Windows環境におけるROCmの制約は、ソフトウェアの安定性や対応GPUの少なさに起因している。特に、最新のRDNA 4世代のGPUではまだ正式なサポートが発表されておらず、ディープラーニングやAIワークロードをWindowsで実行する際の選択肢は限られている。
AMDのアヌシュ・エランゴヴァン氏がWindows向けROCmの拡大に肯定的な発言をしたことで、今後の対応範囲が広がる可能性が高まっている。この動きは、AMDのGPUを活用する開発者や企業にとって重要な意味を持つ。
現在のAI市場ではNVIDIAのCUDAが圧倒的なシェアを持っており、AMDがWindows向けROCmを本格的に提供すれば、開発環境の選択肢が広がることになる。これにより、WindowsベースのシステムでもAMDのハードウェアを活用した高性能な計算処理が可能となり、NVIDIAに依存しないエコシステムが形成される可能性がある。
Windows向けROCm拡大がもたらす影響と課題
Windows向けROCmの拡大は、開発者やAI市場にとって大きなメリットをもたらすと考えられる。まず、これまでLinux環境に限定されていたAMDのGPUコンピューティング機能が、より幅広い開発者層に提供されることになる。
Windowsユーザーにとっては、ハードウェアの選択肢が増えるだけでなく、既存のシステムでROCmを活用できるようになることで、開発コストの削減や導入の容易化が期待される。一方で、Windows向けROCmの拡張には課題も多い。現時点では、サポートされるGPUの範囲が限定的であり、特にミドルレンジ以下のRadeon GPUでは安定した動作が保証されていない。
Windows環境ではドライバの最適化が必要であり、特定のモデルではクラッシュやタイムアウトなどの問題が発生する可能性も指摘されている。このため、AMDがROCmの互換性をどこまで広げるのか、また、どの程度の時間を要するのかが焦点となる。
また、AMDがROCmのWindows対応を拡大したとしても、NVIDIAのCUDAに匹敵するエコシステムを短期間で構築するのは容易ではない。CUDAは長年にわたる市場支配の中で豊富なツール群と開発環境を提供しており、すでに多くの企業や開発者が依存している。AMDがこの流れを変えるには、ハードウェア性能の向上に加え、ソフトウェアの最適化や開発者支援を強化する必要がある。
AI市場におけるAMDの戦略とNVIDIAへの対抗
AMDがWindows向けROCmのサポートを拡大する背景には、AI市場での競争激化がある。現在、NVIDIAのCUDAがAI開発の標準となっているが、AMDはROCmを武器に対抗を試みている。特に、tinygradの開発を通じてMI300Xへの最適化が進められており、今後の展開次第では、AMDがAI向けの計算プラットフォームとしての地位を確立する可能性がある。
NVIDIAのハードウェアが市場を独占している状況は、価格の高騰や供給不足の問題を引き起こしている。AMDがROCmをWindowsに本格対応させ、開発者がより低コストで利用できる環境を整えれば、NVIDIAの市場支配に揺さぶりをかけることができる。特に、RDNA 4 GPUやMI300Xの性能がCUDA環境と競争できるレベルに達すれば、AI向け計算インフラの選択肢が広がることになる。
ただし、現時点ではROCmのWindows向け最適化は途上にあり、競争力の向上には時間がかかると見られる。AMDがNVIDIAに対抗するには、ROCmの安定性向上に加え、開発者向けのツールやドライバの最適化を進める必要がある。
また、NVIDIAが意図的に制限しているとされるダブルスループットTensorコアの性能解放など、ハードウェアの進化も市場の競争環境を変える要因となる。AI市場の動向を左右する要素として、tinygradの活用も注目されている。
tinygradはAMDのハードウェアを活かしたAI計算の新たな可能性を示しており、今後のROCmの進化とともに、その影響力を強める可能性がある。AMDがROCmをWindows向けに本格的に展開し、開発者の支持を獲得できるかが、今後の競争を左右する重要なポイントとなるだろう。
Source:Wccftech