米音響機器メーカーSonosは、独自のストリーミングビデオプレイヤー「Pinewood」の開発を正式に中止すると発表した。本プロジェクトは、Apple TVの競争相手となることを目指し、2023年から開発が進められていたが、2025年の発売を待たずに終了となった。
この決定の背景には、2024年初頭に発生したiPhone向けSonosアプリの深刻な不具合と、それに伴うユーザーからの批判がある。アプリの問題は経営体制にも影響を及ぼし、CEO交代を招く事態に発展した。新たに暫定CEOに就任したトム・コンラッド氏は、全社的な戦略見直しの一環としてPinewood開発の打ち切りを決断した。
Sonosは今後、ストリーミングビデオ市場への参入を見送り、音響製品の改良と既存ユーザーの信頼回復に注力する方針を示している。2024年末に発表された新型サウンドバー「Arc Ultra」は好評を博したが、今回の撤退により2025年の新製品リリース計画は白紙となった。業界内では、Sonosの動画市場進出自体に疑問を呈する声もあり、今後の事業方針が注目される。
SonosがPinewoodの開発を断念した理由と背景

Sonosは2023年からApple TVに対抗するストリーミングビデオプレイヤー「Pinewood」の開発を進めていた。しかし、2024年初頭にiPhone向けSonosアプリの深刻な不具合が発生し、ユーザーの評価が急落した。これを受け、Sonosはソフトウェアの安定性を最優先とする方針へと転換し、Pinewoodの開発は見送られた。
同時に、経営陣の交代も影響を与えた。2024年には、長年CEOを務めたパトリック・スペンス氏が退任し、暫定CEOとしてトム・コンラッド氏が就任した。新体制のもとで戦略の見直しが進み、事業の本流である音響機器の強化にリソースを集中する決定が下された。こうした変化により、Pinewoodは当初の計画から大きく外れることとなった。
また、市場環境の変化も無視できない要因である。既存の動画ストリーミング市場は競争が激化しており、新規参入は容易ではない。NetflixやApple TV+をはじめとする大手企業が圧倒的なコンテンツ量とブランド力を持つ中、Sonosが独自のプラットフォームを成功させるには多大なコストと時間を要する。そのため、Pinewoodの中止は戦略的な撤退とも捉えられる。
Sonosのストリーミング事業撤退が示す業界の潮流
SonosのPinewood開発中止は、音響機器メーカーがストリーミング市場に参入する難しさを浮き彫りにした。従来、Sonosは高品質なスピーカーやサウンドバーを提供し、ハードウェア分野で成功を収めてきた。しかし、ソフトウェア領域においては競争力を維持することが難しく、今回の決定はその現実を反映している。
加えて、音響機器とストリーミングサービスの統合は多くの企業が模索してきたが、成功例は限られている。例えば、AmazonのEchoシリーズは自社の音楽サービスと連携しているが、Spotifyなどのサードパーティサービスが主流となっており、独自プラットフォームの優位性は確立しにくい。
Sonosもこの壁に直面し、ハードウェアとソフトウェアのバランスを見直さざるを得なかったと考えられる。また、近年の市場動向を踏まえると、Sonosの決定は合理的といえる。消費者のストリーミング習慣は既存の大手サービスに固定されつつあり、新規プレイヤーが参入しても視聴者を獲得することは容易ではない。
むしろ、Sonosが強みとするハードウェアの改良や、他社のストリーミングサービスとの連携を強化する方が現実的な選択肢となる。
今後のSonosの戦略と業界の展望
Pinewoodの開発中止により、Sonosは本来の強みである音響製品に焦点を戻すことになる。2024年末には新型サウンドバー「Arc Ultra」が発表され、これは好評を得た。今後は、ハードウェアの改良や、ストリーミングプラットフォームとのシームレスな連携を重視した戦略が進められるとみられる。
一方で、競争が激化する音響市場においても、Sonosは独自の課題を抱える。BoseやSonyなどの競合企業も進化を続けており、高品質な製品の開発だけではなく、ユーザー体験の向上が求められる。特に、2024年のiOSアプリ不具合問題を受けて、Sonosのソフトウェア面での改善が急務とされている。
業界全体としても、ハードウェアメーカーが独自のストリーミングサービスを提供することの難しさが浮き彫りになった。今後、Sonosが競争力を維持するためには、独自プラットフォームの開発よりも、既存のエコシステムとの協調路線を取ることが不可欠となるだろう。
Source:AppleInsider