ソフトウェア業界は長らく投資家にとって魅力的な分野だったが、現在、その構造的リスクが顕在化しつつある。かつてはスケールのしやすさと評価の明確さが強みだったが、急増したVCの存在が投資案件の希少性を高め、競争を激化させた。
さらに、ノーコード開発やAIツールの進化により、技術的な参入障壁が崩壊。大学生が数日で強力な競争相手となる時代に突入した。加えて、AIが生み出す「幻覚」に依存するビジネスの脆弱性も無視できない。
市場が成熟し、大企業が有望な領域を席巻する中、新興ソフトウェア企業の生存戦略は限られる。VCにとってリターンの期待値は低下し、リスクの見直しが不可避となっている。
ソフトウェア投資の競争激化とその影響

ソフトウェア投資の市場は、過去10年以上にわたり急成長を遂げた。コードのスケーラビリティや評価の容易さが投資家にとって魅力的であり、ベンチャーキャピタル(VC)はこぞって資金を投じた。しかし、その結果、競争が激化し、現在では多くの投資家が収益性の低下を実感している。
特に、SaaS市場の飽和が顕著だ。オーバーラップ・ホールディングスの分析によると、純粋なソフトウェア投資の需要に対し、VCの数が4:1という不均衡な状況になっている。この割合の高さは、魅力的な投資先の枯渇を示している。資金が市場に流入しすぎた結果、企業の評価額は実態以上に高騰し、利益確保が難しくなっている。
この市場環境では、単に成長率が高いという理由で企業価値を判断することは危険だ。競争が激しい市場では、成長の維持が難しく、わずかな収益悪化が企業存続に大きな影響を及ぼす可能性がある。従来のVCの投資戦略が通用しなくなりつつあり、次なる成長分野を見極める必要性が増している。
AIの進化がソフトウェア市場の参入障壁を崩壊させた
かつてソフトウェア業界は、専門的なスキルを持つ開発者のみが参入できる領域だった。しかし、ノーコード開発ツールやAIの進化により、その障壁は劇的に低下した。現在では、プログラミング経験のない個人でも高度なアプリケーションを短期間で開発できるようになっている。
特に、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)の普及は、開発のプロセスを根本から変えた。かつては数ヶ月を要したソフトウェア開発が、数日で可能になり、スタートアップの競争環境を一変させた。この影響で、VCの資金を得た企業が市場を独占するという構図が崩れ、個人や小規模チームが強力な競争相手として台頭している。
しかし、AIを活用したソフトウェアには大きな課題もある。LLMが持つ「ハルシネーション」と呼ばれる誤情報の生成問題が、その一例だ。精度の高い出力が求められる分野では、誤った情報が致命的な影響を及ぼす可能性がある。AIに依存したソフトウェアが増えることで、信頼性の確保が重要な課題となっている。
成長市場の消滅とゾンビ・スタートアップの増加
ソフトウェア業界では、低コストで市場を席巻できるビジネスモデルがすでに大企業に吸収されている。AWSが登場して19年が経過し、クラウドベースのSaaS市場も成熟期を迎えた。かつてVCにとって魅力的だった高成長分野は、今ではほぼ開拓し尽くされている。
その結果、新たに登場するスタートアップは、小さなニッチ市場にフォーカスせざるを得ない。例えば、「ヒゲ好きの人向けデーティングアプリ」や「空港ラウンジの完全ガイド」など、細分化されたサービスが増えている。消費者にとっては面白いサービスかもしれないが、VCにとっては大きなリターンを期待しづらい。
こうした状況下で、十分な資金調達ができずに成長が止まる「ゾンビ・スタートアップ」が増加している。かつてのように、一気に市場を獲得して高い企業価値を得ることが難しくなり、資金不足のまま生き延びる企業が多くなっている。VCが従来の成功モデルを見直す時期に来ているのは明らかだ。
Source:Crunchbase News