AppleがWWDCの基調講演を対面形式で復活させる可能性が浮上している。新たなAI戦略やSiriの大型アップデート延期に対する批判が強まる中、ライブイベントを通じて開発の透明性を示し、信頼回復を図る狙いがあるとみられる。

コロナ禍以降、Appleはすべての基調講演を事前収録形式で実施してきた。しかし、事前収録では編集により演出が可能なため、Siriの新機能が「実際には未完成だった」との批判が噴出した。ライブ形式に戻せば、リアルタイムのデモを通じて実際の技術力をアピールし、開発者やユーザーとの信頼関係を強化する契機となる可能性がある。

ジョン・グルーバーによる「クパチーノの状態は腐っている」との批評はAppleに大きな影響を与えた。対面イベントが復活すれば、単なる製品発表の場を超え、Appleの企業姿勢を示す重要な機会となるかもしれない。

AppleのWWDC基調講演はなぜ事前収録が続いたのか

AppleがWWDCの基調講演を事前収録形式に切り替えたのは、2020年のパンデミック以降のことだ。それ以前のWWDCでは、ティム・クックやクレイグ・フェデリギら幹部がステージに登壇し、リアルタイムで新技術を披露していた。しかし、新型コロナウイルスの影響で対面イベントが中止され、Appleはオンライン配信に完全移行。その後も事前収録を継続してきた。

事前収録形式の利点は、プレゼンテーションの精度を向上させ、トラブルのリスクを排除できる点にある。過去にはライブ基調講演でデモの不具合が発生し、機能の未完成ぶりが露呈したこともあった。録画であれば、そうしたリスクを回避し、洗練された映像を提供できる。

特にAppleのブランディングにおいては、一切のミスを許容しない完璧なイメージが重視されるため、事前収録は理にかなった選択だった。一方で、事前収録形式にはデメリットもある。観客のリアクションがないため臨場感に欠け、発表が単なる映像作品のように感じられることだ。

実際、昨年の「Apple Intelligence」発表時も、事前収録の演出によって機能が過剰に誇張されているとの指摘があった。事前収録の手法は、リスク管理の観点では優れているが、テクノロジー企業としての信頼性を維持する上で課題を抱えている。

SiriのAI進化に対する批判とAppleの戦略転換

Siriの進化は、AppleのAI戦略の象徴とされてきた。しかし、昨年発表された「パーソナライズドSiri」のデモ映像が、実際には完成された機能ではなく「コンセプトビデオ」だったことが判明し、批判が集中した。テック評論家のジョン・グルーバーは、Appleのプレゼン手法を厳しく批判し、開発の実態との乖離を指摘。

こうした指摘は、Appleの技術力に対する市場の信頼を揺るがす要因となった。AppleはWWDCでAI戦略を発表し続けてきたが、他社と比較すると発表時のインパクトが不足しているとの指摘も多い。Googleは「Gemini」、OpenAIは「ChatGPT」の進化を強調し、実際のデモを通じてAIの実用性を示している。

それに対し、Appleはプロモーション映像を中心に構成するため、実際にどこまで進化しているのかが分かりにくい。AI時代において、単なる映像よりもリアルなデモの重要性が高まっている。この状況を打開するため、AppleはWWDCでの発表形式を見直す可能性がある。

もしライブ基調講演を復活させ、実機を用いたデモを強化すれば、開発の進捗をより明確に示すことができる。WWDCは開発者向けのイベントであり、現場のエンジニアが直接技術を披露する場でもある。事前収録では伝えきれない「実際に動く技術」を見せることが、Appleにとって最良の戦略となるかもしれない。

AppleはWWDCのライブ復活で何を得られるのか

WWDCの基調講演をライブ形式に戻すことで、Appleは複数のメリットを得られると考えられる。第一に、開発者やユーザーとの信頼回復だ。Siriの進化に対する疑念が強まる中、実機デモを通じて実際の技術を示すことができれば、「AppleのAIは現実のものだ」というメッセージを強く打ち出せる。

第二に、メディアの注目度の向上である。事前収録の基調講演は、情報がコントロールされすぎており、予測不能な驚きが少ない。一方、ライブ基調講演はリアルタイムで展開されるため、予想外の発表やハプニングが話題を呼びやすい。特にSNS時代において、ライブの瞬間的な盛り上がりはブランドの話題性を高める要因となる。

第三に、Appleの企業文化の再構築という側面もある。スティーブ・ジョブズ時代のAppleは、ライブプレゼンテーションを通じて革新性を訴求し、テクノロジーの未来を牽引する姿勢を示していた。現在のAppleは「完成度の高い製品」を提供する企業となったが、ライブ基調講演を復活させることで「挑戦し続ける企業」としての姿勢を改めて強調できる。

2025年のWWDCが、Appleにとって転換点となる可能性は高い。ライブと事前収録のハイブリッド形式を導入することで、新しい発表スタイルを確立し、信頼と話題性を両立させることが求められるだろう。

Source:9to5Mac