サムスンが2019年に開発していたGalaxy A80は、回転式カメラを搭載し、前後カメラを1つに統合するという大胆な試みだった。しかし、それよりもさらに革新的なアイデアが、当時同社のディスプレイ部門で検討されていたことが判明した。
特許申請の内容によると、このデバイスはロール式ディスプレイを採用し、画面が展開するのと連動してカメラモジュールが前面から背面へと移動する仕組みになっている。カメラが自在に動くことで、1つのカメラで全ての撮影を担うという構想だ。
しかし、この設計には技術的な課題が多く、最終的に実用化には至らなかった。現在、画面下カメラやAIによる画像処理技術が発展し、当時の発想は過去のものとなったが、サムスンの挑戦的なアイデアがスマートフォン業界に与えた影響は小さくない。
サムスンが特許申請したロール式スマホの革新的な設計

サムスンのディスプレイ部門が2019年に申請した特許は、従来のスマートフォンの概念を覆す大胆なデザインを特徴としていた。このデバイスは、ロール式ディスプレイを採用し、画面が拡張する際にカメラモジュールが前面から背面へと移動する仕組みを持つ。これにより、1つのカメラシステムだけで通常の撮影とセルフィーの両方をこなせるという構想だった。
この特許が米国意匠特許庁によって再公開されたことで、再び注目を集めている。過去の特許が再公開される理由はさまざまだが、技術的な進展によって再評価された可能性もある。Galaxy A80のような回転式カメラが登場した時期と同じ2019年に考案されていたことを踏まえると、当時サムスンが次世代のスマートフォンデザインに関して多様なアプローチを模索していたことがうかがえる。
この特許の構想が実現していれば、ディスプレイとカメラの関係性において新たな可能性を切り開いたかもしれない。現在の主流となっている画面下カメラやパンチホール式カメラとは全く異なる方向性を持っており、スマートフォンの形状そのものを変える試みであったことは間違いない。
ロール式スマートフォンの実現に立ちはだかる課題
この設計が実際に製品化されなかった最大の理由は、技術的なハードルの高さにあると考えられる。ロール式ディスプレイ自体が高度な技術を必要とする上に、カメラシステムを可動式にすることで、さらに複雑なメカニズムが求められる。ディスプレイの柔軟性を確保しながら、同時に耐久性や実用性を維持することは、当時の技術では難しかった可能性が高い。
また、この設計は「問題のない問題を解決しようとしている」側面もある。例えば、ラップアラウンドディスプレイを採用すれば、端末を裏返すだけで前後カメラの役割を切り替えることができるため、わざわざカメラを可動式にする必要はなくなる。可動部が増えるほど故障のリスクも高まり、製造コストやメンテナンスの面でも課題が多かったと考えられる。
現在のスマートフォン市場では、ポップアップ式や回転式カメラの採用はほぼ見られなくなった。その理由の一つに、こうした機構が耐久性の問題を抱えていることがある。Galaxy A80もユニークなコンセプトで話題にはなったが、後継機は登場せず、可動式カメラの流れは定着しなかった。ロール式スマートフォンの特許も同じ運命をたどることになったといえる。
カメラデザインの変遷と今後のスマートフォン技術
サムスンの特許に見られるような「1つのカメラですべてを賄う」設計は、2019年当時は画期的に思えたが、現在ではほぼ消え去った。その理由の一つに、スマートフォンのカメラ技術が急速に進化したことがある。複数のカメラを搭載し、それぞれの役割を分担する設計が主流となり、AI技術の発展によってソフトウェア処理も向上したことで、物理的な可動機構を持つカメラの必要性は大幅に低下した。
特に、近年注目されている技術が「画面下カメラ(Under Display Camera, UDC)」である。Galaxy Z Foldシリーズにも採用されているこの技術は、カメラをディスプレイの下に埋め込み、パンチホールやノッチを排除することを可能にする。完全な画面没入感を実現しながら、従来のカメラ機能を維持する試みだ。
サムスンが過去に検討したロール式スマートフォンのアイデアは、技術的には非常にユニークだったが、現在の市場トレンドとは異なる方向性を持っていた。しかし、このような挑戦的な発想こそがスマートフォン技術の進化を加速させてきたことも事実であり、今後も予想外の革新的なデザインが登場する可能性は十分にある。
Source:SamMobile