イーサリアムはDencunアップグレードの導入により、取引手数料が劇的に低下した。Etherscanのデータによれば、スワップにかかる平均コストは2024年の86ドルから、わずか0.39ドルへと95%減少した。この結果、NFT取引の手数料も大幅に削減され、より多くのユーザーが分散型アプリケーション(DApps)にアクセスできる環境が整った。

一方、技術革新とは裏腹に、ETH価格はDencunアップグレード以降53%下落し、約1,891ドルへと低迷している。競争が激化する仮想通貨市場において、イーサリアムが開発者と投資家の支持を取り戻せるかが今後の鍵を握る。次のPectraアップグレードにより、さらなる技術的向上が期待されるが、根本的な問題の解決には至っていないとの見方もある。


Dencunアップグレードがもたらした劇的なコスト削減

イーサリアムは2024年3月13日に「Dencun」アップグレードを実施し、取引手数料の大幅な削減に成功した。Cancun(実行レイヤー)とDeneb(コンセンサスレイヤー)の統合によるこの技術革新は、特にレイヤー2ソリューションのコストを削減する9つの改良提案(EIP)を導入したことが特徴である。

この影響は即座に表れ、Etherscanのデータによると、スワップ取引の平均手数料は2024年の86ドルから0.39ドルへと95%も減少した。NFT売却の手数料も、昨年の145ドルから0.65ドルへと劇的に低下した。YChartsのデータでは、2024年3月に72 gweiだった平均ガス料金が、2025年3月には2.7 gweiへと縮小している。

これにより、資本が限られたユーザーでも分散型アプリケーション(DApps)を利用しやすくなり、DeFiプラットフォームやNFT市場、SocialFiアプリケーションなどの普及を後押しする環境が整った。イーサリアムのスケーラビリティ向上を目指した技術的進歩は、ユーザーのコスト負担を軽減し、エコシステムの拡大に貢献している。

技術革新と市場価値の逆説 ETH価格はなぜ下落したのか

Dencunアップグレードによって手数料削減という大きな進歩を遂げたイーサリアムだが、その市場価値はむしろ低迷している。CoinGeckoのデータによれば、ETHの価格は2024年3月の4,070ドルから、1年後の2025年3月には1,891ドルへと53%の下落を記録した。

この現象の背景には、仮想通貨市場の構造的な変化がある。DeFiの総預かり資産(TVL)は、価格の下落により大幅に縮小し、特にソラナのミームコイン市場の活況が、ETHの需要低下を引き起こしたとの指摘もある。Build on Bitcoin(BOB)の共同創設者であるDominik Harz氏は、業界が新たなフロンティアを模索していると述べている。

イーサリアムの技術的進歩が市場価値の上昇につながらないのは、仮想通貨が単なる技術基盤ではなく、投機的な要素を持つ資産であることを示している。今後の市場動向は、技術開発の成果だけでなく、投資家心理や他のブロックチェーンとの競争環境にも大きく左右されることになるだろう。

Pectraアップグレードとイーサリアムの未来

Dencunの成功に続き、イーサリアムは2025年3月5日に「Pectra」アップグレードをSepoliaテストネットで実施した。このアップグレードは、レイヤー2で利用可能なデータ空間を2倍に拡張し、さらなるコスト削減と処理能力の向上を目指すものである。

導入初期にはいくつかの問題も発生したが、開発者の間では、Pectraがイーサリアムのスケーラビリティ向上に寄与すると期待されている。しかし、Harz氏はこのアップグレードについて「正しい方向への一歩」と評価しつつも、根本的な問題を解決する決定打ではないと指摘する。

イーサリアムは依然として開発者にとっての主要なブロックチェーンであり続けているが、その地位は急速に変化している。競争が激化する中で、イーサリアムが投資家や開発者の支持を維持できるかどうかが、今後の成長を左右する重要な要素となるだろう。

Source: Cointribune