中国が量子コンピューティング分野で新たな進展を遂げた。同国の科学技術大学(USTC)の研究チームが、105量子ビットを搭載した最新の量子チップ「祖沖之3号(Zuchongzhi-3)」を発表。従来のスーパーコンピューターを1000兆倍上回る計算能力を持つとされ、量子超越性の達成を宣言した。
この発表は、Googleが開発した「Willow」チップと対比される。両者とも105量子ビットを備えるが、テスト条件や誤り率に違いがあり、依然として技術的課題が残る。一方、米国もGoogleやMicrosoftを筆頭に量子コンピューターの実用化を目指し、エラー訂正技術やスケーラビリティの向上を推進中。
米中の量子競争は暗号技術や国家安全保障にも影響を与える可能性があり、今後の進展が注目される。中国の優位性が続くのか、それとも米国が巻き返すのか、量子コンピューティングの覇権争いはさらに激化する見込みだ。
中国が発表した「祖沖之3号」の技術的特徴と量子超越性の主張

中国科学技術大学(USTC)の研究チームが発表した「祖沖之3号(Zuchongzhi-3)」は、105量子ビット(qubits)を搭載し、既存のスーパーコンピューターをはるかに凌駕する処理能力を持つとされる。このチップの計算速度は、従来の最先端チップと比較して1000兆倍に達すると報告されており、中国はこれをもって「量子超越性」の達成を宣言した。
量子超越性とは、従来のコンピューターでは事実上不可能な計算を量子コンピューターが短時間で実行できる状態を指す。Googleは2019年に「Sycamore」プロセッサーでこの概念を実証し、IBMや中国の研究機関も競争を繰り広げてきた。
今回の「祖沖之3号」は、Googleの最新量子チップ「Willow」と同じ105量子ビットを搭載し、二次元グリッド構造を採用。さらに、83量子ビットで32層のテストを実施し、計算能力の高さを示したとされる。
ただし、量子超越性を達成したとする主張には慎重な検証が必要である。実用化に向けた最大の課題は、量子ビットのエラー訂正と長時間の安定稼働であり、現在の技術ではエラー率が高く、限定的な条件下でしか動作しない。USTCのチームが発表したデータの詳細な解析と独立した評価が求められる。
Google「Willow」との比較で見えた中国の技術的優位性と課題
「祖沖之3号」は、Googleの最新量子チップ「Willow」と同じ105量子ビットを搭載しているが、技術的な違いが存在する。両者とも二次元グリッド構造を採用し、演算の並列処理を最適化しているが、Googleの「Willow」は誤り率の低減に特化しており、ゲート忠実度(gate fidelity)が高いとされる。
一方、「祖沖之3号」は、83量子ビットを使用し32層のテストを実施しており、Googleの「Willow」が67量子ビットで32層のテストを行った点と比較すると、より高いレベルの試験を行ったと考えられる。
しかし、量子コンピューティングの実用化にはエラー率の改善が不可欠であり、計算能力だけでなく安定性も重要となる。中国の量子技術が急速に進歩していることは確かだが、「祖沖之3号」が商業利用や軍事応用に直結する段階には至っていない。量子コンピューターが従来のコンピューターに対して優位性を発揮するには、エラー訂正技術の向上や実際のアプリケーションに適用できるかどうかが鍵となる。
加えて、中国の量子技術の進展は、国家主導の研究開発によるものであり、政策的な支援を受けている点が特徴的だ。GoogleやIBMといった民間企業が主導する米国のアプローチと異なり、中国は政府が主導して研究開発を推進しており、長期的な視点で量子技術を育成している。
技術的な優位性を確立するには、資金投入だけでなく、エコシステム全体の成熟が不可欠であり、研究成果が実用化に結びつくかどうかが今後の焦点となる。
米中の量子コンピューティング競争とその地政学的影響
量子コンピューティングは単なる技術競争にとどまらず、国家安全保障や経済戦略にも深く関わる分野である。現在、米国と中国は量子技術の開発を国家戦略の一環として位置づけており、競争は熾烈を極める。特に量子暗号技術や機密情報の解析能力の向上は、軍事・経済におけるパワーバランスを変える可能性があり、各国の政策決定に大きな影響を与えている。
中国が「祖沖之3号」を発表したことで、米国は量子コンピューティングの優位性を維持できるのかが問われている。Google、IBM、Microsoftといった米国企業は、量子ビットのエラー訂正技術やスケーラビリティの向上を進めており、商業利用を見据えた開発に注力している。
一方、中国は国家資本を投入し、基礎研究から実用化までの一貫した体制を構築しつつある。この戦略の違いが、今後の技術競争にどのような影響を与えるかが注目される。
ただし、現時点では、いずれの国も完全な量子コンピューターの実用化には至っていない。誤り訂正技術が確立されなければ、量子コンピューターは特定の計算でしか優位性を発揮できず、従来のコンピューターを完全に置き換えることは難しい。今後、量子技術がどの分野で先行して実用化されるのか、また米中以外の国々がどのような立場を取るのかが、世界のテクノロジー戦略を大きく左右することになる。
Source:TipRanks