AI音声技術を手掛けるSoundHound AI(SOUN)の株価が2025年に入り急落し、年初から56%の下落を記録した。2023年には半導体大手Nvidiaが投資したことで注目を集めたが、そのNvidiaが保有株を売却したことや、過熱したバリュエーションが影響し、株価は大きく値を下げた。一方、同社の業績は堅調で、2024年第4四半期の売上は前年比101%増と力強い成長を見せている。

決算発表後には株価が一時17.5%上昇し、経営陣も2025年の売上予想を上方修正するなど、成長への自信を示した。財務面では1億9,800万ドルの現金を保有し、負債ゼロという健全な状態を維持。アナリストの評価も「中程度の買い」が主流で、今後の株価上昇の可能性を指摘する声もある。

ただし、現在の株価売上倍率(P/S比率)は41.4倍と依然として高く、割安感には乏しい。市場環境の不透明感が続く中、この押し目を買いの好機と見るかどうかは慎重な判断が求められる。


SoundHoundの株価急落の背景 Nvidiaの売却と過熱した評価

SoundHound AI(SOUN)の株価が2025年に入り大幅に下落した背景には、複数の要因が絡んでいる。その一つが、半導体大手Nvidia(NVDA)の投資戦略の変化である。2023年、NvidiaはSoundHoundに約370万ドルの投資を行い、AI市場での注目度が一気に高まった。しかし、2025年に入るとNvidiaは保有株をすべて売却し、市場に動揺をもたらした。これにより、Nvidiaの支援が成長の根拠の一つと見られていたSoundHoundの評価が揺らぎ、投資家の売りが膨らんだ。

さらに、SoundHoundの株価は2024年までに大幅な上昇を遂げ、6か月間で113%の急騰を記録していた。この上昇により、株価売上倍率(P/S比率)は41.4倍に達し、業界平均の2.87倍を大きく上回った。高いバリュエーションは期待成長率の高さを示す一方で、投資家が慎重になる要因ともなった。市場全体の不確実性が高まる中で、高成長銘柄への警戒感が強まり、SoundHoundの株価は急落することとなった。

しかし、株価の下落が企業の業績悪化を意味するわけではない。同社の2024年第4四半期決算は好調で、売上は前年同期比101%増の3,450万ドルを記録し、ウォール街の予測を上回った。にもかかわらず、1株当たり0.69ドルの損失を計上したことで、市場の評価は二分された。株価が下落した今、過去のバブル的な評価が正常化したと捉えることもできるが、成長期待と割高感のバランスを見極めることが求められる。

財務健全性と成長余地 買いのチャンスはあるのか

SoundHoundの株価は急落したものの、財務基盤は依然として健全である。同社は2024年末時点で1億9,800万ドルの現金および現金同等物を保有しており、負債はゼロという強固な財務状況を維持している。AI関連のスタートアップ企業が多くの資本を必要とする中、SoundHoundの財務状態は特筆すべき安定性を持っている。この資金力は、今後の成長戦略の実行において大きな武器となる可能性がある。

また、2025年の売上予測は1億5,700万〜1億7,700万ドルと上方修正されており、経営陣は成長への自信を示している。会話型AI市場の需要拡大に伴い、SoundHoundの技術は自動車、医療、金融サービスといった多岐にわたる分野での採用が進んでいる。特に、自動車業界では車載AIアシスタントの需要が急増しており、大手自動車メーカーとの提携拡大が期待される。

一方で、同社は依然として黒字化を達成していない。2025年の純損失は前年比73.1%縮小し、2026年にはさらに21.4%改善すると見込まれているが、利益を安定的に生み出せるかどうかは不透明な要素として残る。アナリストの評価は「中程度の買い(Moderate Buy)」が主流であり、強気の見方では目標株価を26ドルとする声もあるが、現状では慎重な姿勢を崩していない。投資家にとっては、成長性と財務の健全性を評価しつつ、リスクをどう捉えるかが重要となる。

AI市場の拡大とSoundHoundの競争力

会話型AI市場は近年急速に拡大しており、SoundHoundはその中で独自のポジションを築いている。多くの企業がAmazonのAlexaやAppleのSiriといった大手テック企業の製品に依存する中、SoundHoundはBtoB市場に特化し、企業向けの音声認識技術に注力してきた。同社の技術は多言語対応の高速・高精度な音声認識を可能にし、「スマートアンサー」「スマートオーダー」「ダイナミック・ドライブスルー」などの革新的なAIツールを提供している。

特に注目されるのが、飲食業界や自動車業界への展開である。例えば、ドライブスルーの注文プロセスを自動化する「ダイナミック・ドライブスルー」は、米国の大手ファストフードチェーンでの導入が進んでいる。また、自動車メーカーとの提携により、音声アシスタント機能の開発を加速させており、今後の成長分野として期待されている。

ただし、競争環境は厳しく、他のAI企業も急速に技術開発を進めている。MicrosoftやGoogleといったテック大手が生成AI技術を強化する中、SoundHoundが独自の価値を示し続けることができるかが問われる。投資家にとっては、同社の技術力と市場での競争優位性が維持できるかを慎重に見極める必要がある。

Source:Barchart