AMDが開発したメモリオーバークロック技術「AMD EXPO」が、2025年のPC市場で注目を集めている。DDR5 RAMの高速化を実現するこの技術は、対応マザーボードのBIOSで簡単に設定でき、最大8,400MHzの高周波数メモリをフル活用するために不可欠とされる。
EXPOは、従来のIntel XMPに対抗する形で2022年に登場し、AMDのAM5プラットフォームを中心に広がりを見せている。特にRyzen 7000や9000シリーズのプロセッサと組み合わせることで、システム全体のパフォーマンスを向上させることが可能だ。
AMD EXPOの仕組みとXMPとの違い

AMD EXPOは、DDR5メモリのオーバークロックを簡単に有効化できる技術である。従来、メモリのオーバークロックは細かな設定が必要だったが、EXPOはBIOS上でワンクリックで適用可能となる。これにより、ユーザーは最適な周波数やタイミングを即座に利用できるようになった。
EXPOは、IntelのXMP(Extreme Memory Profile)と似た機能を持つが、最大の違いはその設計思想にある。XMPは2007年にDDR3メモリ向けに登場し、Intelプラットフォーム向けに最適化されている。一方、EXPOは2022年にAMDのAM5プラットフォームとともに発表され、DDR5メモリ専用のオーバークロック技術として開発された。これにより、AMD製CPUとの組み合わせで最大限のパフォーマンスを発揮できる仕様となっている。
EXPOは「EXPO 1」と「EXPO 2」の2種類のプロファイルを持ち、前者は標準的なオーバークロック、後者はより高いパフォーマンスを引き出すための設定となる。ただし、EXPO 2を使用すると消費電力が増加する可能性があるため、用途に応じた選択が求められる。また、IntelのXMP 3.0では3つ目のカスタムプロファイルが用意されているが、EXPOにはそのような機能はなく、基本的にプリセットの設定を利用する形となる。
AMDプラットフォームを使用している場合、EXPOは最適なメモリパフォーマンスを引き出すための重要な要素となる。特に高周波数のDDR5メモリを使用する場合、EXPOを有効化しなければ本来の性能を十分に発揮できない可能性がある。したがって、AMD製のPCを構築する際には、この技術の活用が不可欠といえる。
EXPOの有効化で実現するパフォーマンス向上
EXPOを有効化することで、メモリの動作周波数がJEDEC標準の4,800MHzや6,400MHzから、最大8,400MHzまで向上する。これにより、システム全体の処理速度が上がり、特にメモリ依存度の高いアプリケーションでは顕著な違いが生じる。
AMDの公式データによると、EXPOを有効化することで1080p環境のゲームパフォーマンスが最大11%向上するとされている。ただし、この影響は解像度によって異なり、1440pや4Kではメモリの帯域幅よりもGPU性能がボトルネックになりやすいため、効果は限定的と考えられる。
また、EXPOは単にゲームだけでなく、クリエイティブ用途でも恩恵がある。動画編集や3Dレンダリングといったメモリを多用する作業では、メモリ帯域幅の増加が処理速度に直結するため、DDR5の性能を最大限に引き出すことが可能となる。特に8,000MHz以上の高速メモリを搭載する場合、EXPOを利用しないと理論上のパフォーマンスを十分に活かしきれない。
一方で、低速なDDR5メモリ(5,000MHz~5,600MHz)を使用している場合、EXPOの恩恵はそれほど大きくない。標準設定との差が小さいため、EXPOを有効化しても体感できる違いは限定的になる可能性がある。とはいえ、基本的にEXPOをオンにしてもデメリットはないため、設定を適用しておくことが推奨される。
EXPOの安全性と導入時の注意点
EXPOは、メモリのオーバークロック技術であるが、通常のOCとは異なり、メーカーによって動作が保証された範囲内で設定される。そのため、システムの安定性を大きく損なうリスクは低い。
EXPOを有効化するには、BIOSにアクセスし、オーバークロック関連の設定を変更する必要がある。ほとんどのマザーボードでは「Tweaker」や「Overclocking」といったメニュー内にEXPOのオプションが存在する。一部のGigabyte製マザーボードでは、簡易モードから直接EXPOを有効化できるため、設定の手間が省ける場合もある。
しかし、すべてのDDR5メモリがEXPOと完全に互換性があるわけではない。特に、特定のメモリメーカーの製品では、AM5プラットフォームとの相性が影響し、最適な動作が得られない可能性もある。導入前には、公式のメモリ互換リストを確認し、自身のマザーボードとメモリがEXPOに対応しているかを確認することが重要となる。
また、万が一EXPO設定が原因でPCが正常に起動しない場合は、CMOSリセットを行うことでBIOS設定を初期化できる。稀に発生するケースだが、メモリのオーバークロックが原因でPCがクラッシュした場合は、この手順を知っておくと復旧がスムーズになる。
EXPOは安全性が高く、AMDプラットフォームのパフォーマンスを最大限に活用できる技術である。設定の手順を理解し、適切な環境を用意すれば、より高速なメモリ性能を活かすことが可能となる。
Source:TechRadar