AI向けクラウドプラットフォーム「TensorWave」が主催するBeyond CUDA Summitが本日開幕した。本イベントは、NvidiaのCUDA依存から脱却し、より多様なAIコンピューティング環境の可能性を探る場となる。基調講演には、著名なコンピュータアーキテクトであるJim KellerとRaja Koduriが登壇し、ハードウェアの選択肢を広げる重要性を語る予定だ。
現在、AI分野ではNvidiaのGPUとCUDAがデファクトスタンダードとなっているが、AMDのInstinct MIシリーズをはじめとする競争相手も存在する。しかし、CUDAのエコシステムは長年の開発と最適化により圧倒的な優位性を持ち、代替技術であるROCmやoneAPIは普及が進んでいない。こうした状況を打破するため、Beyond CUDA Summitではハードウェアの多様性やソフトウェアの選択肢を広げる方法が議論される。
KellerとKoduriが登壇 Beyond CUDA Summitが目指すもの

Beyond CUDA Summitは、AI計算におけるNvidiaの圧倒的な影響力を再考する場として開催された。主催するのはTensorWaveであり、イベントには業界の著名人が集結している。その中心にいるのが、半導体アーキテクチャの設計に精通したJim KellerとRaja Koduriだ。
KellerはかつてAMD、Apple、Tesla、Intelなどでチップ開発を主導し、現在はAIハードウェア設計を手掛けるTenstorrentに所属している。一方、KoduriはIntelのグラフィックス部門を率いた経歴を持ち、GPU設計の第一人者として知られる。この二人がイベントのメインスピーカーとなることで、Nvidiaの独占に挑む動きが本格化していることが分かる。
今回のサミットのテーマは、「CUDAを超えた未来」だ。Nvidiaが長年築き上げてきたCUDAエコシステムは、多くのAI開発者にとって不可欠なものとなっている。しかし、その影響力が他の技術の発展を阻害していると考える声もある。イベントでは、CUDAの代替技術を検討し、AI計算の選択肢を広げるための議論が進められる予定だ。
Nvidiaが築いたCUDAの牙城 代替技術はどこまで迫れるか
Nvidiaは2006年にCUDAを発表し、それ以来、AI計算の分野で圧倒的なシェアを誇っている。GPUによる並列計算の恩恵をいち早く活用し、ディープラーニングやHPC(高性能計算)の分野で欠かせない技術となった。現在では、多くのAIフレームワークや研究機関がCUDAに最適化されており、Nvidiaの支配が確立されている。
一方で、AMDのROCmやIntelのoneAPIといったCUDAの代替技術も登場している。しかし、これらはCUDAほどの普及率を誇らず、互換性の問題も抱えている。特にROCmは最新のAMD GPUでしか動作しないことが課題とされ、Nvidiaが持つような長期間にわたるサポート体制が整っていない。
また、CUDAの利用が一般化したことで、開発者がNvidiaのハードウェアに縛られる状況が生まれている。この「ベンダーロックイン」がイノベーションの妨げになっているとの指摘もある。Beyond CUDA Summitでは、こうした問題を解決するために、よりオープンなソフトウェアとハードウェアの組み合わせを模索する場となっている。
AIコンピューティングの未来はどう変わるのか
Beyond CUDA Summitが目指すのは、より自由なAIコンピューティング環境の実現だ。現状では、多くの研究者や企業がNvidiaのCUDAに依存しており、他の選択肢を取るには高いコストや技術的なハードルが存在する。この状況を打破するには、ソフトウェア側の進化とハードウェアの柔軟性の向上が求められる。
特に、AMDのROCmがCUDAの代替としてどこまで成長できるかが焦点となる。ROCmはオープンソースであり、理論上は幅広いハードウェアで動作可能だが、実際にはサポート範囲が限定されている。今回のサミットで発表される技術やロードマップによって、ROCmの今後の方向性が見えてくるかもしれない。
また、イベントの会場はNvidiaのGTC(GPU Technology Conference)の開催地であるMcEnery Convention Centerからわずか3ブロックの距離にある。この近さは象徴的であり、Nvidiaの独占的な立場に対する挑戦の意志を示しているようにも見える。参加者には、AMDのInstinct MI210 GPUが当たる抽選もあり、Nvidiaとは異なる選択肢への関心を高める狙いがある。
AI計算の未来がNvidia一強のままなのか、それとも新たな選択肢が生まれるのか。Beyond CUDA Summitの動向が、今後のGPU市場に大きな影響を与える可能性がある。
Source:Tom’s Hardware