Visaは、200以上の国と地域で事業を展開する決済大手として、各国の異なる規制に対応するために生成AIを導入した。特に検索拡張生成(RAG)を活用し、ポリシー関連の情報検索速度を最大1000倍向上させた。

また、機密情報保護のために開発された「Secure ChatGPT」は、Microsoft Azure上で運用され、GPT-4やClaude、Llamaなど複数のAIモデルを統合。Visa独自のRAG-as-a-Serviceにより、ユーザーは適切なAIモデルを選択し、業務に応じた最適な回答を得られるようになった。

さらに、Visaは40億ドル規模の詐欺取引をAIで阻止し、4層構造のデータ基盤を活用してリアルタイムの不正検知を強化。今後もAI技術の発展とともに、決済セキュリティのさらなる向上が見込まれる。

VisaのRAG-as-a-Serviceが変革する情報検索と業務効率

Visaは、検索拡張生成(RAG: Retrieval-Augmented Generation)を導入し、社内の情報検索を劇的に効率化させた。従来、200以上の国と地域にまたがる規制やポリシーに関する問い合わせには、手作業での検索が必要であり、場合によっては数日かかることもあった。しかし、RAGの活用により、検索時間は最大1000倍短縮され、数分以内に正確な回答を得ることが可能となった。

この技術は、単なる情報検索の高速化にとどまらない。回答には情報の出典が明示されるため、ユーザーは検索結果の信頼性を即座に確認できる。Visaのデータ&AI担当シニアバイスプレジデントであるサム・ハミルトン氏も、「検索品質の向上と遅延解消により、業務の効率が飛躍的に向上した」と語る。

VisaのRAG-as-a-Serviceの導入は、同社の情報管理戦略の大きな転換点となる。これにより、従業員はより迅速かつ正確な意思決定が可能となり、顧客対応の質も向上する。さらに、リアルタイムでの規制順守が求められる決済業界において、この技術は競争優位性を生む要素となるだろう。

Secure ChatGPTがもたらすデータ保護とAI活用の新たな形

Visaは、従業員向けに「Secure ChatGPT」と呼ばれる独自のAIシステムを導入し、AIの利便性とデータ保護を両立させた。このシステムはMicrosoft Azure上で運用され、従来のChatGPTと異なり、ファイアウォール内で動作する。さらに、データ損失防止(DLP)機能により、機密情報が外部に流出するリスクを排除している。

Secure ChatGPTの最大の特徴は、6つの異なるAIモデルを統合したマルチモデルアプローチである。GPT-4をはじめ、ClaudeやLlama、Geminiなどのモデルを利用可能とし、ユーザーは目的に応じて適切なモデルを選択できる。また、Visaはこのシステムを「モデル・アズ・ア・サービス」と位置づけ、柔軟なAI活用を促進している。

このような取り組みは、AIの進化とともに企業のデータ管理が直面する課題を示している。Visaは機密性の高い決済データを扱う企業として、AI技術を単に導入するのではなく、安全な環境下で活用する仕組みを構築した。Secure ChatGPTの成功は、今後他のグローバル企業がAIの活用を検討する際のモデルケースとなるだろう。

AIとディープラーニングを活用したVisaの詐欺防止戦略

VisaはAIとディープラーニングを駆使し、不正取引の検出と防止に注力している。2024年には、AIを活用した監視システムにより40億ドル規模の詐欺被害を阻止した。Visaの詐欺対策には、リカレントニューラルネットワーク(RNN)やTransformerモデルが組み込まれ、リアルタイムで取引のリスクを分析し、不正を即座にブロックする仕組みが構築されている。

また、Visaはシンセティックデータ(合成データ)を活用し、未知の詐欺パターンを事前にシミュレーションする。この技術により、新たな手口による不正が発生する前に対策を講じることが可能となる。加えて、Visaの4層データ基盤がこれらのAIシステムを支え、ペタバイト単位のデータを安全に処理・分析する環境を提供している。

このようなAI技術の進化は、決済業界における詐欺対策の在り方を変えつつある。従来のルールベースの不正検知手法では対応が難しかった新たな詐欺手法も、AIによるパターン認識と機械学習により迅速に察知される。Visaの戦略は、AIが金融の安全性を強化する鍵となることを示しており、今後もさらなる技術革新が期待される。

Source:VentureBeat