Metaは初の自社製AIトレーニングチップをテスト段階に進めた。これはNvidia製GPUへの依存を減らす戦略の一環であり、台湾TSMCとの協力により製造され、設計段階を完了した。
OpenAIやBroadcomも独自のAI半導体を開発する中、Metaの動きは市場競争をさらに激化させる可能性がある。特にMetaはRISC-Vアーキテクチャの採用を検討し、オープンソース技術を活用した柔軟な設計を目指している。
Metaはこのチップを2025年までに本格運用する計画を持つ。これが成功すれば、NvidiaのAI市場独占体制に大きな変化をもたらす可能性がある。
MetaのAI戦略転換 自社製チップがもたらす影響

Metaは、AI開発の中核を担う半導体分野で自社開発の道を歩み始めた。2024年、初の自社製AIトレーニングチップのテスト段階に入り、これによりNvidiaへの依存を軽減する戦略を進めている。これまでMetaはAIトレーニングにNvidiaのA100やH100といった高性能GPUを活用してきたが、コストや供給の課題が顕在化し、独自チップ開発への移行が急務となった。
この新チップはTSMCと共同で製造され、テープアウトを完了した。これは設計が完了し、実際の製造プロセスに移行したことを意味する。関係者によれば、このAIチップはトレーニング用途に特化した専用アクセラレーターであり、AIタスクに最適化されることで従来のGPUよりも電力効率が高い可能性がある。
Metaはすでに推論用AIチップ「MTIA」を開発しており、その延長線上でトレーニングチップの運用を進める考えだ。
Metaに限らず、OpenAIやAmazon、Googleといった大手テクノロジー企業もAI向けの独自半導体開発を加速させている。特にOpenAIは「General Processing Unit(GPU)」と呼ばれる独自のAI向けチップの開発を進めており、Broadcomもハイパースケール企業向けにカスタムAIチップを提供する動きを強めている。
こうした潮流の中、Metaの新チップが成功すれば、NvidiaのAI市場での圧倒的優位性が揺らぐ可能性がある。
Nvidiaの独占崩壊の序章か 競争環境の変化
NvidiaはこれまでAI市場において圧倒的な支配力を誇ってきた。H100を筆頭とするGPUは、大規模なAIモデルのトレーニングに不可欠な存在であり、各企業がこぞって確保を進めてきた。だが、その独占的地位が崩れる兆しが見え始めている。
Metaの新チップに加え、OpenAI、Google、Amazonといった企業が独自の半導体開発を加速させることで、AIチップ市場の競争はこれまでにないレベルに達する可能性がある。特に、Metaのトレーニングチップが成功し、本格導入されれば、同社は数万規模のNvidia製GPU調達を削減できる可能性があり、市場全体のGPU需要にも影響を与えかねない。
ただし、Nvidiaがすぐに市場を失うとは考えにくい。MetaやOpenAIの独自チップは、現時点ではまだテスト段階にあり、Nvidiaの提供する成熟したエコシステムと比較すれば、安定性や汎用性に課題を抱える可能性がある。また、Nvidiaは引き続きAI向けの最先端ハードウェアを開発しており、企業向けの統合ソリューションやクラウドサービスの強化によって優位性を維持する戦略を打ち出している。
とはいえ、今回のMetaの動きは、AI業界の競争環境に大きな変化をもたらす契機となるかもしれない。今後数年間で、独自半導体を持つ企業と、Nvidiaに依存し続ける企業の間に大きな技術的・経済的格差が生じる可能性がある。
MetaのRISC-V戦略が意味するもの
Metaの自社製チップ開発の背景には、RISC-Vアーキテクチャの活用という戦略的な選択がある。RISC-Vはオープンソースの命令セットアーキテクチャ(ISA)であり、従来のx86やARMとは異なり、ライセンスコストが発生しない。そのため、企業は自由度の高いカスタマイズが可能となり、独自の用途に最適化されたチップを開発できるメリットがある。
MetaはすでにAI推論向けの「MTIA」チップにRISC-Vを採用しており、今後のトレーニングチップにもRISC-Vの技術を組み込む可能性があると見られている。これが実現すれば、AIチップ市場におけるARMの影響力が減少し、よりオープンな技術競争が進む可能性がある。
しかし、RISC-VベースのAIアクセラレーターはまだ市場で十分に成熟しているとは言えず、NvidiaのCUDAやAMDのROCmといったGPU向けのソフトウェアエコシステムとの互換性が課題となる。加えて、RISC-Vの発展には半導体業界全体の協力が不可欠であり、Meta単独での取り組みだけでは市場を大きく変えるには至らない可能性もある。
それでも、MetaがRISC-Vを活用することで、AI向けハードウェアの開発において新たな可能性を切り開くことは間違いない。もしこの動きが成功すれば、オープンソース技術を基盤としたAI半導体開発が一層進み、業界全体の技術的多様性が広がることになるだろう。
Source:TechRadar