AMDは、最新のRyzen AI Max+ 395を発表し、市場で最も強力なx86 APUと位置づけた。同チップは16コア32スレッドを備え、50TOPS超のAI処理能力を持つXDNA 2 NPUを搭載。Radeon 8060S統合グラフィックスを内蔵し、AIワークロードに特化した設計となっている。
ベンチマークテストでは、Intel Core Ultra 7 258Vを大幅に上回るAI処理性能を示し、特にDeepSeek R1やPhi 4 Mini Instructにおいて最大12.2倍の速度差を記録。しかし、競合機との比較では、テスト環境の不均衡が指摘されており、公平性には疑問が残る。
さらに、Ryzen AI Max+ 395は、AIノートPCだけでなくミニPC市場にも進出。複数のメーカーが本チップを搭載した新型ミニPCを投入予定であり、AIコンピューティングの中心的存在となる可能性が高い。ただし、競争環境の不透明さから、圧倒的な優位性をそのまま受け取ることには慎重な視点が求められる。
AMD Ryzen AI Max+ 395の圧倒的な性能 ベンチマークが示す優位性

AMD Ryzen AI Max+ 395は、最新のベンチマークテストにおいて競合するIntel Core Ultra 7 258Vを大きく上回る結果を示した。特にLM Studioを用いたAI処理能力の比較では、「1秒あたりのトークン数」と「最初のトークンまでの時間」で明確な差が生まれた。DeepSeek R1 Distill Qwen 14bでは最大12.2倍、Phi 4 14bでは11.3倍の処理速度を記録し、ほとんどの大規模言語モデル(LLM)で圧倒的なパフォーマンスを発揮した。
この結果を支えているのが、Ryzen AI Max+ 395の高いスペックだ。本チップは16コア32スレッドを搭載し、最大ブーストクロック5.1GHzに達する。また、XDNA 2アーキテクチャを採用したNPUは50TOPS以上のAI処理能力を持ち、最新のRDNA 3.5アーキテクチャに基づくRadeon 8060S統合グラフィックスも組み込まれている。これにより、従来のAPUを大きく超えるAI処理性能が実現されている。
ただし、ベンチマーク環境には留意が必要である。AMDのテストは、Asus ROG Flow Z13(64GB RAM)とIntel Core Ultra 7 258V搭載のAsus Zenbook S14(32GB RAM)で比較された。メモリ容量やデバイスの特性が異なるため、単純なプロセッサー性能の比較としては完全に公平とは言い難い。とはいえ、AI処理の分野でRyzen AI Max+ 395が高いパフォーマンスを発揮することは確かであり、特にAIワークロードを重視するユーザーにとっては注目すべき製品となる。
Intel Core Ultra 7 258Vとの比較 公平な競争とは言えない理由
AMDが公表したベンチマーク結果では、Ryzen AI Max+ 395の優位性が強調されたが、その競争環境については慎重な視点が求められる。比較対象となったIntel Core Ultra 7 258Vは、Ryzen AI Max+ 395とは異なる設計思想を持つプロセッサーであり、そもそもターゲットとする市場が異なる可能性がある。IntelのCore Ultra 7シリーズは、低消費電力かつバランスの取れたパフォーマンスを重視して設計されており、TDP(熱設計電力)は最大37Wに抑えられている。一方、Ryzen AI Max+ 395は55WのデフォルトTDPを持ち、最大120Wまで設定可能な設計となっている。
さらに、比較に用いられた2つのノートPCにも大きな違いがある。ROG Flow Z13はハイエンドのゲーミングノートPCであり、強力な冷却機構を備えている。それに対し、Zenbook S14はウルトラブックに分類され、省電力性能を重視した設計がなされている。このような異なるデバイスを用いたテストでは、CPU単体の純粋な性能比較としての妥当性が問われる。
このように、AMD Ryzen AI Max+ 395が圧倒的な性能を持つことに疑いはないが、Intel Core Ultra 7 258Vとの比較をそのまま受け入れるのは難しい。特にAIコンピューティングの分野では、プロセッサーの設計思想や用途が異なることが結果に大きな影響を与えるため、単純なベンチマークの数値だけで結論を出すのは早計である。今後、より公平な環境での比較や実際の市場評価が求められるだろう。
Ryzen AI Max+ 395の可能性 AIミニPC市場でも広がる影響
Ryzen AI Max+ 395は、高性能AIノートPC向けのプロセッサーとして発表されたが、その影響はミニPC市場にも広がっている。GMKTecやAoostarなどのメーカーが本チップを搭載したAI対応ミニPCを発表する予定であり、AI活用を前提とした新たなコンピューティング市場が形成されつつある。従来のミニPCは省スペース・省電力を重視した製品が多かったが、Ryzen AI Max+ 395の登場により、高性能なAI処理が可能なコンパクトデバイスが増えていくことが予想される。
特に、AIを活用したエッジコンピューティングの分野では、このチップの活躍が期待される。50TOPS以上のAI処理能力を備えたXDNA 2 NPUを搭載しているため、ローカルでのAI推論処理が高速化され、クラウド依存を減らすことが可能となる。例えば、画像認識、自然言語処理、自動化システムの領域では、より迅速なデータ処理が求められており、Ryzen AI Max+ 395はそのニーズに応える性能を持つ。
とはいえ、AIミニPC市場はまだ発展途上であり、どの程度の需要が見込まれるかは不透明な部分もある。現在は企業向け用途や開発者向け市場が中心となると考えられるが、今後のAI技術の進化によって、一般消費者向けの製品が普及する可能性もある。Ryzen AI Max+ 395の登場が、こうした市場の変化を加速させる契機となるかどうか、その動向に注目が集まる。
Source:TechRadar