世界最大の半導体受託製造企業であるTSMCは、2025年初頭に売上高5533億ニュー台湾ドルを達成し、前年比39.2%増という驚異的な成長を遂げた。特にNVIDIA向けAIチップの需要が業績を押し上げ、2月の売上は前年同月比43.1%増の2600億1,000万ニュー台湾ドルに達した。
一方で、同社の排出量は前年より増加。Scope 1・2の排出量は1178万3,418トンCO₂eに拡大し、Scope 3も761万6,655トンCO₂eに達した。TSMCは2050年のネットゼロ達成を目標に再生可能エネルギー導入を加速させるが、成長と環境負荷のバランスが問われている。
米国での1,650億ドル規模の投資計画を進める中、半導体輸入関税の動向も同社の戦略に影響を及ぼす可能性がある。環境規制や地政学的リスクが高まる中、TSMCの持続可能な成長への取り組みが注目される。
TSMCの急成長 AI需要がもたらした半導体市場の変革

TSMCは2025年初頭に売上高5533億ニュー台湾ドルを記録し、前年比39.2%の成長を達成した。特にAIチップ需要の急増が業績を押し上げ、NVIDIAを筆頭にAMD、Apple、Qualcommなど主要顧客への供給が拡大した。2025年2月の売上は前年同月比43.1%増の2600億1,000万ニュー台湾ドルとなり、同月として過去最高を更新した。アナリストは3月の売上がさらに増加する可能性があると見ており、TSMCの第1四半期の売上目標(8,200億~8,462億4,000万ニュー台湾ドル)と整合する水準となる見込みである。
この成長の背景には、生成AIやデータセンター市場の拡大がある。特にNVIDIAのGPUを中心とする高性能半導体の需要が増加し、TSMCの最先端プロセス技術が不可欠となっている。加えて、5G通信、IoT、自動運転などの技術革新も同社の成長を支えている。
一方で、TSMCは現在の市場環境を踏まえ、新たな戦略の検討を迫られている。AIチップの需要が続く中、競争環境の変化や地政学リスクが今後の成長に影響を与える可能性がある。特に米中対立による規制強化や、米国での製造拡大によるコスト増が収益に及ぼす影響は注視すべき点である。
米国への巨額投資と関税リスク 半導体産業の新たな勢力図
TSMCは米国での事業拡大に向け、1,650億ドル規模の投資を発表した。アリゾナ州フェニックスにおける650億ドルのプロジェクトを基盤とし、さらに3つの半導体工場、2つのパッケージング施設、研究開発センターを追加する。これは米国史上最大規模の外国直接投資(FDI)となる見込みであり、Apple、NVIDIA、AMD、Broadcomなど米国大手企業との関係を強化する狙いがある。
この投資により、数万人規模のハイテク雇用創出が期待され、今後10年間で2,000億ドル以上の経済効果をもたらす可能性がある。しかし、TSMCにとって最大の懸念は、米国による半導体輸入関税の影響である。2025年、米国政府が中国を含む半導体製造業者への新たな関税措置を検討しており、TSMCの収益構造に影響を与える可能性が指摘されている。
CEOの魏哲家(C.C. Wei)氏はホワイトハウスで元米大統領ドナルド・トランプ氏と会談し、投資計画と関税問題について協議したとされる。関税の適用次第では、米国市場におけるTSMCのコスト競争力が問われることになる。米国政府の政策がどのような方向に進むかによって、TSMCのグローバル戦略は大きな影響を受けることになる。
環境負荷の増大と持続可能性 TSMCのネットゼロ戦略
TSMCは2050年までのネットゼロ排出達成を掲げているが、成長に伴う環境負荷の増大が課題となっている。2023年のScope 1・2排出量は1,178万3,418トンCO₂eに達し、前年から1.9%増加。Scope 3の排出量も761万6,655トンCO₂eに拡大した。特に、12インチウェーハ1層あたりの温室効果ガス(GHG)排出量は31%増加し、2020年比での目標を大幅に超過した。
これに対し、TSMCは複数の環境施策を展開している。2024年には「気候および自然レポート」を初めて発表し、持続可能性の観点からの経営戦略を示した。また、2023年には822の省エネルギー対策を実施し、8億3,000万kWhの電力を削減。炭素コストを5億9,000万ニュー台湾ドル削減する成果を上げた。さらに、台湾工業技術研究院(ITRI)は、TSMCの技術が2030年までに世界のエネルギー削減に貢献すると試算している。
しかし、こうした取り組みにもかかわらず、TSMCの環境負荷は依然として拡大傾向にある。最先端の半導体製造には膨大なエネルギーが必要であり、従来のエネルギー消費構造を抜本的に変えない限り、ネットゼロ達成は困難とみられる。TSMCは再生可能エネルギーの使用率を2030年までに60%に引き上げる計画を進めるが、先進技術によるさらなる省エネルギー策の確立が求められる。
Source:Barchart.com