米国時間2025年に開催されたNvidiaの技術カンファレンス「GTC」において、Intelのパット・ゲルシンガーCEOは、Nvidiaのジェンスン・フアンCEOがAI分野で成功したのは「運が良かったため」との持論を改めて展開した。

ゲルシンガーは、Intelが過去に進めていたLarrabeeプロジェクトについても言及し、同社がAIおよびHPC(高性能計算)分野でのチャンスを逃したことを認めた。

Larrabeeは、x86アーキテクチャをベースにしたGPU開発を目指したが、当時のNvidiaやAMDの専用GPUと競争できる性能を発揮できず、2009年にプロジェクトは中止された。その後、スーパーコンピューター向けのXeon Phiとして再登場したものの、AI時代の波に適応できず、2019年に正式に終了している。

ゲルシンガーは、Nvidiaが「スループット・コンピューティング」とアクセラレーション技術の発展に注力したことで、AI時代の中心企業となったと分析。一方でIntelは、CPUの汎用性を重視した結果、GPU市場の変化に適応しきれなかったことが明暗を分けたとした。

現在、Intelは次世代データセンター向けGPU「Jaguar Shores」に期待をかけるが、競争環境は厳しく、Nvidiaの優位は揺るがないとみられる。

Intelが逃したAI市場の転換点 Larrabeeの挫折とその影響

Larrabeeプロジェクトは、Intelが2000年代後半に推進したx86アーキテクチャを基盤とするGPU開発計画である。当時、IntelはCPUの支配力を活かし、並列コンピューティングにも適応可能なGPUを設計しようとした。

しかし、結果としてこの試みは失敗に終わり、Larrabeeは2010年にGPUとしての開発が中止された。その後、プロジェクトはHPC向けのXeon Phiに転換されたが、AI市場の成長に追随することはできなかった。

Larrabeeの最大の課題は、汎用性を重視しすぎた点にあった。専用のグラフィックス機能を備えたNvidiaやAMDのGPUと異なり、Larrabeeはx86命令セットを拡張する形で並列処理能力を向上させようとした。しかし、この設計はGPUとしての効率を大きく損なった。

特に、グラフィックス用途に不可欠なラスタライゼーション処理ユニットを備えておらず、パフォーマンス面で致命的な欠陥を抱えていた。その結果、市場競争力を持つことができず、Intelは専用GPUの開発から一度撤退を余儀なくされた。

この戦略の失敗は、後のAI市場におけるIntelの立ち位置にも影響を及ぼした。NvidiaはCUDAエコシステムを確立し、AIおよびHPC分野で圧倒的なシェアを確保した。一方、Intelは専用GPU市場からの撤退により、AI向けハードウェアの競争で後れを取った。結果として、データセンターやAIアクセラレーション分野でNvidiaが優位に立ち、IntelはCPU依存の事業戦略を見直さざるを得なくなった。

現在、IntelはAI向けの新たなGPU開発に取り組んでいるが、Nvidiaの先行者利益は極めて大きい。Larrabeeの失敗がIntelのAI戦略にどれほどの影響を与えたのか、今後の動向を見極める必要がある。

Nvidiaの成功は「運」だったのか GPU市場の変革とジェンスン・フアンの戦略

パット・ゲルシンガーは、Nvidiaのジェンスン・フアンが「AI分野で運が良かった」と述べたが、この主張には単純化しすぎた側面がある。確かに、AI市場がGPUの計算能力を必要とする方向に急速に発展したことはNvidiaにとって有利に働いた。しかし、その流れを作り出したのは、単なる幸運ではなく、Nvidiaの戦略的な選択による部分が大きい。

2000年代半ば、Nvidiaはグラフィックス用途に特化したGPU開発に集中していた。一方で、Intelのように汎用性を追求するのではなく、CUDAというプログラミングフレームワークを提供し、GPUを単なるグラフィックス処理装置から汎用計算向けのアクセラレーターへと変貌させた。これにより、AI研究者やHPC業界の開発者がNvidiaのハードウェアを活用しやすくなり、結果としてAI市場におけるGPUの地位が確立された。

AI市場が急成長した背景には、ディープラーニング技術の進化がある。特に2010年代に入り、ニューラルネットワークのトレーニングに高い並列処理性能が求められるようになった。このとき、CUDAをすでに確立していたNvidiaは、市場の需要に迅速に応えることができた。一方、Intelはこの流れに乗り遅れ、CPUベースの計算モデルに固執したため、AI市場での競争力を失った。

Nvidiaの成功は、単なる運ではなく、技術的な先見性と戦略的な決断によるものである。ジェンスン・フアンは長年にわたりGPUの可能性を追求し、適切なタイミングで市場の変化に適応した。ゲルシンガーの発言はIntelの立場からの見解に過ぎず、AI市場におけるNvidiaの躍進は偶然ではなく、計画的な成果とみるべきである。

Intelの巻き返しは可能か Jaguar Shoresに懸ける未来

Intelは現在、AI市場での地位を回復するために次世代GPU「Jaguar Shores」を開発中である。しかし、Nvidiaが圧倒的なシェアを誇る中で、Intelが本当に巻き返しを図ることができるのかは不透明だ。

Intelは過去にデータセンター向けのGPU開発を試みたものの、十分な成功を収めることができなかった。直近では、Falcon Shoresの開発が中止され、Jaguar Shoresが新たな希望とされている。しかし、Jaguar Shoresの詳細な仕様や競争力については依然として未知数であり、市場投入のタイミングによってはNvidiaやAMDとのギャップをさらに広げる可能性もある。

現在、AI向けアクセラレーター市場ではNvidiaのH100や次世代のBlackwellアーキテクチャが主流となっている。これに対抗するには、単に高性能なGPUを開発するだけでなく、ソフトウェアエコシステムや開発者支援策を強化する必要がある。しかし、Intelはこれまで独自のGPUソフトウェア環境を築くことに成功しておらず、CUDAをはじめとするNvidiaの開発環境と競争するのは容易ではない。

Intelが今後AI市場でシェアを拡大するためには、単なるハードウェアの性能向上だけでなく、AI研究者や企業が採用しやすい環境を整備することが不可欠だ。Jaguar Shoresの成功がIntelのAI戦略を左右する要素となるが、現在の市場環境を考慮すると、その道のりは決して平坦ではない。

Source:Tom’s Hardware