インテルの元CEO、パット・ゲルシンガー氏がNVIDIAのAI GPUの価格設定に対し厳しい見解を示した。彼は、AI推論において現在のGPUは本来求められるコストの1万倍も高価であり、市場はやがてその問題に気づくと主張した。
ゲルシンガー氏は、NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏について「AIで運が良かっただけ」と述べ、同社の成功が戦略的なものではなく偶然に依る部分が大きいと指摘。一方で、AIの未来は推論にあるとし、より最適化されたハードウェアの必要性を強調した。
インテルはかつての「Falcon Shores」AIチップ開発を断念し、「Jaguar Shores」に注力する方針を示しているが、市場での立場は依然として厳しい状況にある。今後、インテルがAI市場での競争力を取り戻せるかが焦点となる。
NVIDIAのAI GPUは本当に「1万倍高価」なのか インテル元CEOの主張を検証

パット・ゲルシンガー氏は、NVIDIAのAI GPUがAI推論の用途には「1万倍高価」だと発言した。これは、AIのトレーニングと推論のコスト構造の違いを踏まえた指摘である。AIモデルの開発には高性能なGPUが不可欠だが、推論では処理能力と消費電力のバランスがより重要となる。
実際にNVIDIAのデータセンター向けAI GPU「H100」などは数万ドル単位の価格帯で取引され、推論向けの安価な専用ハードウェアと比べるとコストがかさむ。
GoogleのTPUやMetaの自社開発チップ、あるいは低コストなASICソリューションと比較すれば、ゲルシンガー氏の主張には一定の妥当性がある。ただし「1万倍」という数字の根拠については明示されておらず、誇張表現の可能性も否定できない。
また、NVIDIAはCUDAという独自の開発環境を強みに、GPUを推論用途にも活用する市場を構築してきた。単なる価格比較では測れないエコシステムの優位性があり、ハードウェア単体の価格だけを基準に評価するのは難しい。ゲルシンガー氏の指摘は、今後のAI市場の競争激化を見据えた問題提起とも解釈できる。
インテルのAI戦略と市場での苦境 「Falcon Shores」開発中止の背景
インテルはAI市場で苦戦を強いられている。かつて同社が期待をかけていた「Falcon Shores」AIチップは開発中止となり、現在は「Jaguar Shores」へと方向転換している。この戦略変更は、競争が激化するAI半導体市場において、インテルが十分な技術的優位性を確立できなかったことを示唆するものだ。
NVIDIAとAMDはAI向けハードウェアの分野で先行し、特にNVIDIAはGPUとCUDAの組み合わせによって独占的な地位を築いている。一方、インテルの「Gaudi」シリーズはコストパフォーマンスを前面に押し出しているが、性能面で「Hopper」や「Instinct」に比べて見劣りすると指摘されている。
こうした状況を受け、インテルは次世代製品「Jaguar Shores」に期待をかけている。しかし、市場の反応は慎重であり、企業がNVIDIAのエコシステムから容易に離脱するかは不透明だ。ゲルシンガー氏の発言は、インテルが今後どのように市場へ影響を与えるのかという課題を浮き彫りにしている。
AI市場の今後の展望とNVIDIAの立ち位置 インテルは巻き返せるのか
NVIDIAはAI分野において圧倒的な地位を確立しているが、そのビジネスモデルが今後も続くとは限らない。AI推論の分野では、低コストで高効率な専用チップが求められつつあり、GoogleのTPUやMetaの自社チップがその流れを象徴している。
NVIDIAの優位性はCUDAを軸にした開発環境とハードウェアの組み合わせにある。しかし、クラウドプロバイダーや大手テクノロジー企業が独自のチップを開発する動きが加速すれば、NVIDIAの市場支配力は次第に弱まる可能性がある。一方で、AIトレーニング市場では依然として高性能GPUが求められるため、短期的にNVIDIAの優位性が揺らぐことは考えにくい。
インテルがこの状況を打破するには、単なるコスト面での優位性だけでなく、独自のエコシステムや強力なソフトウェア環境を構築する必要がある。今後の市場の動向次第では、ゲルシンガー氏の指摘した「AI推論に最適なハードウェアの普及」がNVIDIAの支配構造を揺るがす転換点となるかもしれない。
Source:Wccftech