Appleが2011年に投入した音声アシスタント「Siri」は、登場当初こそ革新の象徴とされたが、現在ではGoogle AssistantやAmazon Alexaに大きく後れを取っている。特に自然言語処理の精度や会話の連続性、開発者との連携面での遅れが顕著であり、Appleのプライバシー重視の姿勢が技術的進化の足枷となっているとの指摘もある。

こうした中、Appleは自社開発の大規模言語モデル「Ajax」を軸にSiriの再構築を進めており、生成AIの導入による巻き返しに期待がかかる。クラウド依存を減らし、端末内処理によって性能とプライバシーを両立させる構想も明らかとなっているが、急速に進化する競合との差をどこまで埋められるかが課題となる。

Siriの技術的停滞と市場での立ち位置の変化

Appleが2011年に発表したSiriは、iPhone 4Sに搭載された初の音声アシスタントとして脚光を浴び、ユーザーとの対話型インターフェースの先駆けとなった。Siri Inc.の買収により実現したこの機能は、リマインダー設定や天気確認といった基本的な音声操作を可能にし、当時のスマートフォン利用体験を大きく変えた。

しかし、その後の進化は限定的であり、2014年のAmazon Alexa、2016年のGoogle Assistantの登場以降、機能性・拡張性ともに後塵を拝する状況が続いている。特に自然言語処理の精度や文脈理解において、Siriは依然として単発的な応答にとどまっており、Google Assistantのような複数のコマンドを連続的に処理する能力には届いていない。

さらに、AmazonやGoogleが築いたサードパーティによる機能拡張のエコシステムに対し、Appleはプライバシー保護を重視するあまり外部連携を制限し、革新のスピードを鈍化させた。この結果、音声アシスタント市場においてSiriの競争力は明確に低下し、もはや先駆者の地位にはないと評されている。

AppleのAI戦略とAjaxによる巻き返しの試み

Appleは2024年以降、AI戦略の軸を大規模言語モデル「Ajax」に置き換える動きを加速している。AjaxはAppleが独自に開発を進める生成AI基盤であり、従来のSiriでは難しかった高度な会話能力や文脈理解を実現する土台となることが期待されている。

また、Appleはクラウドに依存せず、デバイス上でAI処理を完結させる「オンデバイスAI」の強化に注力しており、これによりプライバシーの確保と処理速度の両立を目指している。こうした取り組みは、データ収集を前提としたGoogleやAmazonとは異なる路線であり、Appleの製品設計哲学と整合する。

ただし、Ajaxによる進化が実際に市場においてどの程度の成果をもたらすかは未知数であり、競合が既に築いたユーザー体験や外部連携の厚みに対して、どこまで実用性を高められるかが問われる。生成AIの導入は、単なる機能強化にとどまらず、AppleのAI基盤全体の再設計を意味する動きであり、Siri復権の成否はこの技術転換に懸かっているといえる。

Source:PYMNTS