フォード(NYSE: F)は、NVIDIAとの新たな提携を通じてAIインフラの強化に踏み出した。車両設計や空力試験にAIを活用し、計算流体力学テストを従来の15時間から10秒に短縮するなど、生産性の飛躍的向上を図っている。しかしながら、2025年3月20日の取引では、株価が約1.5%下落。

背景には、カナダやメキシコからの輸入部品に課される関税を見越した駆け込み生産と、それに伴う部品供給リスクがある。JIT方式の限界やサプライヤーの調達能力が不透明であることも、市場の警戒感を強めている。

さらにウォール街の評価は慎重で、4件の「買い」評価に対し「ホールド」が9件、「売り」が2件と、中立姿勢が多数派を占める。株価には一定の回復余地があるとされるものの、AI投資の成果が株価に直結するには時間を要するとの見方が根強い。

AI設計革新とNVIDIAチップ導入の実態

フォードはNVIDIAとの連携を通じ、AIエージェント搭載を前提とした車両開発の基盤整備に着手している。AIチップの供給をNVIDIAに依頼し、自動運転を含む高度運転支援技術の開発に不可欠な処理能力の確保を目指す。また設計領域でもAIを導入し、従来粘土モデルによって行われていた形状試験や空力評価をデジタル化。計算流体力学(CFD)によるシミュレーションは、15時間を要したプロセスをわずか10秒で完了させるまでに短縮されている。

この革新は、開発スピードの飛躍的向上だけでなく、コスト構造の変化にも直結するとみられる。物理モデルに依存せず、設計段階から性能検証を可能とする手法は、試作工程の省略を通じたコスト削減を促す。ただし、AIの導入には高精度な演算能力と専門的な人材の確保が必要であり、初期投資負担は小さくない。結果として、短期的な財務インパクトが株価に反映されにくい構造が形成されているとも言える。

部品供給体制の脆弱性と関税前対応の限界

カナダおよびメキシコからの部品輸入に新たな関税が課される見通しの中、フォードは生産体制の前倒しによって影響回避を試みている。カナダの労組「Unifor」も物流支援に乗り出し、輸出量の最大化が急務となっているが、部品供給の根幹には多層的な調達網が存在し、サプライヤーの生産能力や原材料の入手状況に依存する側面が大きい。

加えて、フォードは「ジャスト・イン・タイム(JIT)」方式を採用しており、在庫の積み上げには構造的な制約がある。つまり、通常時の効率性を重視した運用が、有事には逆に柔軟性を欠くリスクとなる。この供給不安は、特に北米市場におけるレイオフや生産遅延への懸念として投資家心理に影を落とす。関税の影響が顕在化する前であっても、市場は先回りして反応を見せる傾向が強く、今回の株価下落もその一環と見られる。

Source: TipRanks