Asusは、AMD Ryzen 9000シリーズ向けに新たなBIOS機能「AI Cache Boost」を発表した。大規模言語モデルなどのAIワークロードにおいて最大19.35%の性能向上をうたうこの機能は、Infinity Fabricクロックのオーバークロックにより、データ転送帯域を拡大する設計となっている。
最も大きな恩恵を受けたのはRyzen 7 9800X3Dで、UL Procyonベンチマークでは12.5%のスコア上昇が確認された。対照的に、Ryzen 9 9950X3Dや9900X3Dでは平均5%の向上にとどまる結果となった。
同機能はAsusのAMD 800シリーズマザーボードと特定のBIOS設定が必要であり、「Turbo Game Mode」との併用で最大効果が発揮される。GPUや構成の相性により効果が異なるため、実用性は使用環境に依存すると考えられる。
Ryzen 9800X3Dが示すAI Cache Boostの最適解

Asusが発表した「AI Cache Boost」は、AMD Ryzen 9000シリーズに対応するBIOS機能であり、AI処理の帯域幅を拡張することで性能を向上させる。ベンチマーク結果によれば、特にRyzen 7 9800X3Dにおいて顕著な改善が見られ、UL Procyon AI Computer Visionではスコアが1490から1680へと約12.5%上昇した。
このプロセッサーは本来ゲーミング用途に設計されているが、AIワークロードへの最適化が意外にも功を奏した格好である。
一方、Ryzen 9 9950X3Dや9900X3Dといった上位モデルでは、Geekbench AIの精度別スコアがそれぞれ平均5%前後の改善にとどまり、9800X3Dほどのインパクトは得られていない。
これは、Infinity Fabricクロックのオーバークロックがキャッシュ構造やメモリ接続の最適化により、特定の構成下でのみ効果を発揮することを示唆する。全体として、9800X3DがAI Cache Boostと最も相性が良く、コスト対効果の観点でも優位性を示した形となる。
Turbo Game Modeとの併用による性能拡張の限界
AI Cache Boost単体の性能向上幅はCPUによって異なるが、Asusは既存機能である「Turbo Game Mode」との併用を推奨している。Turbo Game Modeは同時マルチスレッディングを無効化し、単一コアへの最適化を図る設定である。
この機能とAI Cache Boostを同時に有効にした場合、Ryzen 9 9950X3DではUL Procyonのスコアが1426から1702へと大幅に改善された。ただし、この条件下でのみ最大効果が確認された点は看過できない。
Turbo Game Modeを無効のままAI Cache Boostのみを有効にした場合、同CPUのスコアは1485にとどまり、性能向上はわずか4.1%に過ぎなかった。つまり、AI Cache Boostは補助的な機能であり、その真価を引き出すにはマルチスレッド処理の制限という代償を伴う。
構成によっては、ゲーム性能や汎用処理能力とのトレードオフが生じるため、全体のパフォーマンス最適化を目指す際には取捨選択が求められる構造となっている。
構成依存の最適化が示すAI処理向けBIOS機能の方向性
Asusが提示したベンチマークには、ROG Crosshair X870E HeroマザーボードやRTX 5090、DDR5メモリなど、高性能構成が前提となっていた。AI Cache Boostの導入による性能向上は、あくまでこの限られたハードウェア条件下での結果であり、一般的な構成では同等の効果が得られない可能性がある。
特にInfinity Fabricクロックのオーバークロックはシステム安定性に影響を及ぼすため、対象ユーザーは高度な設定管理が求められる。
また、ベンチマークで使われたONNX DirectMLやGeekbench AIといったツールも、実際のワークロードを反映するかどうかは限定的であり、AI Cache Boostが幅広い用途で有効かは検証が必要である。
ただし、AI処理向けにBIOS側から対応しようとするAsusのアプローチは、今後のマザーボード設計やCPU機能の進化に一つの指針を示したと言える。ハードウェア構成の最適化がAI性能に直結する時代の到来を印象づける事例である。
Source:TechRadar