中国テック大手テンセントのCSO、ジェームズ・ミッチェル氏は、AIスタートアップDeepSeekの技術的進展により、大規模言語モデル(LLM)の開発に必要なNVIDIA製GPUの数が劇的に減少したと述べた。DeepSeekは高度なソフトウェアエンジニアリングを駆使し、GPUリソースの使用効率を大幅に向上させたとされる。
この発言は、中国企業が直面するGPU制限の中での新たな戦略転換を示唆しており、従来の「LLMの進化ごとに10倍のGPUが必要」という常識を揺るがすものと受け取られている。実際、NVIDIAの株価は年初から14%下落し、AI需要の先行きに投資家が慎重な姿勢を見せている。
テンセントは自社開発の「Hunyuan Turbo S」でDeepSeekを凌駕したと主張する一方、HuaweiのAscendチップなど代替ソリューションへの関心も高まっており、AIインフラの多様化が加速する可能性がある。
DeepSeekの技術革新が引き起こしたNVIDIA株価の長期停滞

DeepSeekによるGPU活用の最適化は、AI開発コストの構造を根底から揺るがした。米国では数十億ドル単位のGPU投資が続くなか、中国勢はより少ない資源で競争力を確保する道を切り開いた。
テンセントのCSOであるジェームズ・ミッチェル氏は、LLM開発における従来のGPU需要がもはや過去のものとなったと語っている。実際、NVIDIA製GPUへの依存度の低下は市場に明確な反応をもたらし、同社の株価は2024年1月以降、およそ6000億ドルもの評価損を抱えたまま推移している。
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、複数のAI市場が1兆ドル規模へと成長する可能性に言及したが、GTCカンファレンスは投資家心理を好転させるには至らなかった。
特に、中国企業に対する先端GPUの輸出制限が継続されている現状において、DeepSeekの手法はコストパフォーマンスと現実的制約を両立する唯一の戦略と見なされている節がある。NVIDIAの今後の回復は、単なる製品性能ではなく、そのエコシステム全体の再定義にかかっている。
GPU制限下の中国企業が示すAI開発の新たな可能性
中国市場ではNVIDIAのBlackwellやHopperといった最新AI GPUの購入が制限されるなか、TencentやDeepSeekのような企業は既存リソースを最大限に活用する技術開発を進めている。DeepSeekは、GPUのコアに直接アクセスすることでCUDAの制約を回避し、エンジニアリングの柔軟性を拡大した。
こうした手法により、大規模GPUクラスタや先端チップに依存せず、コストを抑えつつ応答速度の高速化を実現したとされる。
Tencentは、1月に発表されたDeepSeekの技術を意識する形で、翌月には独自のAIモデル「Hunyuan Turbo S」を投入した。Turbo Sは、1秒以内の応答性能を武器に、数学的推論や複雑な対話においても高い精度を誇るとされる。
中国企業の間では、HuaweiのAscendチップとの連携も模索されており、米国製チップへの依存からの脱却が進みつつある。こうした動きは、AI産業の地政学的分断を映し出すとともに、GPU中心主義の終焉を予感させる兆しといえる。
「10倍のGPUが必要だった時代」の終焉とテンセントの戦略転換
ジェームズ・ミッチェル氏は、かつては新世代の大規模言語モデルが登場するたびに、GPUの必要数が10倍に膨れ上がるとの認識が業界にあったと語る。しかし、その構図はDeepSeekの技術進展によって大きく変化した。
GPUの数を増やすことなく、既存インフラで生産性を飛躍的に高める手法が証明され、テンセント自身も同様の戦略へと舵を切った。これにより、GPU購入に依存しないAIモデルのスケーリングが現実味を帯び始めている。
テンセントは、AI開発における支出を最適化することで、性能とコストの両立を図っている。同社の取り組みは、単なるリソースの節約ではなく、限られた条件下で競争優位を築くための構造的変革にほかならない。
特に、チップ封鎖によって最新GPUを利用できないという制約は、逆説的にソフトウェア主導の革新を促した側面がある。テンセントが語るように「GPU追加の時代の終わり」は、中国企業が適応を超えて新たな指針を提示したことを意味している。
Source:Wccftech