ソフトバンクグループは、AIチップ設計を手がける米アンペール・コンピューティングを62億ドルで買収し、完全子会社化する。2017年に元インテル社長レニー・ジェームズが設立した同社は、Armベースの高性能プロセッサ設計で知られ、オラクルやカーライルからも出資を受けていた。

この買収は、AIインフラ領域への本格的な布石と位置づけられており、同社が会長を務める「スターゲート・プロジェクト」では、今後4年間で5000億ドル規模のAIデータセンター投資が予定されている。ソフトバンクは過去にArmを320億ドルで取得しており、今回の案件はその知見を活かした連携強化の一環とみられる。

さらに、ビジョン・ファンドも再び活発化し、2025年には既に8件の投資案件に関与。OpenAIやWizとの連携、バイオ・教育分野への資金投入など、AIを軸にした成長戦略が明確になりつつある。

Armエコシステムの知見とAmpere買収が意味する技術的相乗効果

ソフトバンクがアンペール・コンピューティングを完全子会社化したことは、同社が長年培ってきたArmエコシステムへの知見をAIインフラ分野に拡張する動きと位置付けられる。アンペールは、Armベースの高性能サーバー向けチップ設計に特化しており、その製品群はクラウド事業者やエンタープライズ向けAI活用の中核を担う構成要素とされてきた。

今回の買収によって、ソフトバンクは自社が過去に取得したArmとの技術的連携を深化させ、AI専用半導体の戦略的基盤を構築しつつある。

注目すべきは、アンペールがこれまでにオラクルなどの主要企業から8億ドル以上の資金を集めていた点である。市場からの評価も高かった独立系企業を完全傘下に収めたことで、ソフトバンクはAI半導体の垂直統合型モデルへの足掛かりを得た形だ。

Arm買収時と同様、技術の源泉を内部に取り込む戦略は、競合との優位性を築くための一手であり、今後のAI基盤構築において中核的な役割を果たすとみられる。

買収金額は62億ドルに達しており、その規模はソフトバンクの近年のディールの中でも突出している。この大胆な投資行動は、単なる資産取得ではなく、AI技術における主導的ポジション確保の意思表明とも受け取られよう。

スターゲート構想とビジョン・ファンドの再起動が示す長期投資戦略

ソフトバンクが会長を務める予定の「スターゲート・プロジェクト」は、AIデータセンターと関連インフラ整備に今後4年間で5000億ドル規模の資本投入を予定しており、その中心にソフトバンクが位置づけられている。

OpenAIとの提携やエンタープライズ向けAI開発への関与も重なり、今回のアンペール買収は、インフラからアルゴリズム開発までの垂直的連携強化を意味している。単なるチップの調達ではなく、AI技術全体の主導権を握る構図を描いている点が特徴的だ。

一方で、沈静化していたビジョン・ファンドの活動も再び勢いを取り戻している。2025年に入ってから既に8件の投資に関与し、Terabase EnergyやCybereasonへの大型出資を実行した。

医療や教育といったAI応用が期待される分野にも積極的に資金を振り向けており、MetseraやEruditus Executive Educationなどへの出資がそれに該当する。Wizへの非公開投資も含め、将来的な高評価イグジットを見据えた布石が進んでいる。

これら一連の動きは、ソフトバンクが過去の失敗を糧としつつ、AIを軸に長期的成長を目指す構造的戦略を再構築していることを示唆する。資金の規模や対象企業の選定においても、かつての過剰なバリュエーション依存からの転換が見られ、選択と集中を意識した意思決定が行われている。

Source:Crunchbase News