中国の大手自動車メーカーBYDは、新型セダン「Han L」において5分間で最大248マイル(約400km)の充電が可能と発表し、電気自動車(EV)の充電スピードを従来の常識から大きく転換させた。中心となるのは945〜1,000ボルト対応のLFPバッテリーとデュアルガン方式による最大1メガワットの急速充電技術である。
ただし、中国のCLTC基準に基づく航続距離には過大評価の傾向があり、実際の走行距離は約160マイル(260km)程度と見られる。加えて、急速充電には専用インフラや冷却機構が不可欠であり、普及には課題も残る。
米国での導入は関税の壁により困難とされるが、BYDの技術はEV業界全体の充電速度向上への圧力となる可能性が高い。
新型Han Lの充電技術とその革新性

BYDの新型セダン「Han L」に搭載された急速充電技術は、EV業界におけるゲームチェンジャーとして注目されている。特にその中心となるのは、945ボルトの高電圧システムと、新たに導入されたLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーである。これにより、充電速度は大幅に向上し、わずか5分の充電で最大248マイル(約400km)の航続距離が追加可能となる。
バッテリーには、安定性と安全性に優れたLFPタイプが使用されており、過熱による安全性リスクを最小限に抑えつつ、高速充電を実現している。
また、BYDはこれまでLFPバッテリーの技術を長年研究してきた経験があり、Blade 2.0と呼ばれる最新バッテリーアーキテクチャが搭載される。この技術的背景により、充電の速さのみならず、バッテリーの寿命や耐久性も大幅に向上している。
ただし、これを実現するためには、充電インフラの大幅なアップグレードが求められる。特に、1メガワット(1,000kW)という非常に高い充電容量を支えるための設備投資が必要となるため、普及には時間がかかる可能性がある。
急速充電の限界と現実的な航続距離
BYDが発表した充電性能は非常に魅力的だが、現実的な航続距離には一定の課題が残る。中国のCLTC(中国軽型車試験サイクル)基準に基づく評価では、充電5分で最大248マイル(約400km)の走行距離が追加できるとされているが、この数値は現実的な走行条件を反映していない可能性が高い。CLTCの数値は、特に都市部での走行を想定しているため、実際の走行では40%程度短くなると予測される。
そのため、実際には5分間の充電で追加される航続距離は約160マイル(260km)程度と見積もるべきだ。さらに、フル充電までに必要な時間は、16%から100%までの充電に24分を要するという結果からも、理論上の性能と実際の使用感には若干の乖離が見られる。このような実際的な数値を踏まえた上で、高速充電の有用性を評価することが重要である。
とはいえ、これでも従来の充電スピードよりも格段に短縮されており、急速充電技術の進化は確実に進んでいることがうかがえる。今後、EVの充電インフラが整備されることで、さらに速い充電が現実となる可能性は高い。
高速充電技術と充電インフラの課題
BYDの新型車に搭載された1メガワットの急速充電技術は、充電スピードの向上だけでなく、充電インフラの整備も求められる。特に、BYDが中国国内に計画している4,000基以上の高速充電器の設置は、充電の普及に向けた第一歩となる。
しかし、このような大規模なインフラの整備には、膨大な電力供給を支えるための電力網の増強が不可欠であり、既存のインフラでは対応しきれないという問題が浮き彫りになっている。
また、急速充電器を使用するためのケーブルの太さや冷却機能にも工夫が必要だ。特に、1メガワットの充電には、既存の350kW充電器に比べてはるかに大きなケーブルが必要となり、そのための冷却技術の強化も進められている。これらの課題を解決するためには、充電器メーカーと自動車メーカーが連携し、さらなる技術革新を進める必要がある。
とはいえ、このような技術的なハードルを乗り越えた場合、急速充電の普及は一気に加速する可能性が高い。充電時間の短縮が実現すれば、EVの普及に対する消費者の懸念が大きく払拭されることは間違いない。
Source:TechCrunch