2024年、米市場が混乱する中でウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは株式を手放し、現金と短期国債を計3340億ドル保有するという防御的姿勢を貫いた。一時的な相場上昇後に反落が続いたことで、その判断の正確性が証明された格好である。
現在、同社は戦略資金を背景に海外市場への投資を開始しており、日本の総合商社5社への出資比率を最大9.8%にまで引き上げた。伊藤忠・丸紅・三菱商事・三井物産・住友商事の各社は、資源から物流まで多角的に展開しており、バークシャーと類似した事業構造を持つことが評価されている。
バフェットはこれらを長期保有銘柄と位置付け、経営陣の資本政策やガバナンスに対する信頼を明言した。成長とインフレのはざまで揺れる日本経済への投資判断は、地理的分散の重要性と共に、割安市場に資金を振り向ける機動性の一例といえる。
総合商社5社への出資強化が意味する日本市場への長期的関与

バークシャー・ハサウェイは、伊藤忠、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事の大手5商社への出資比率を8.5%〜9.8%にまで引き上げた。2019年の初期投資以降、持ち株比率は段階的に増加しており、足元では最大10%に迫る水準となった。これに加え、バークシャーは円建ての借入を拡大しており、日本市場に対する通貨リスクを抑制しつつ、資本コストを戦略的に調整している姿勢がうかがえる。
これらの商社は、資源・エネルギーから物流、食品、繊維に至るまで多岐にわたる事業を展開しており、バフェットが率いるバークシャーの多角経営と親和性が高いとされる。株主への還元策や資本効率の改善にも積極的で、米国企業と比較して経営報酬も控えめである点が評価された。バフェットは株主向け書簡で「尊敬が年々深まっている」と述べ、経営陣との継続的な対話を通じて投資判断を強化している。
こうした動きは単なる株式保有ではなく、日本経済の基盤的プレイヤーと長期的に関係を築く意志の表れと受け取れる。短期的な市場動向よりも企業の内在価値と経営姿勢に重きを置くバフェットの姿勢が、いま改めて浮き彫りになっている。
バフェットの現金保有戦略と米国市場への静観姿勢
2024年の市場が乱高下する中、バークシャー・ハサウェイは株式売却を進める一方、自社株買いも過去と比べて大幅に縮小した。同時に保有現金と米国短期国債は合計で3340億ドルに達し、歴史的な高水準を維持している。バフェットはこの戦略により、流動性と防御力の確保を両立させつつ、新たな投資機会に備えた「戦時資金」を蓄積した。
この静観姿勢は、2024年の米国政治情勢と経済見通しが大きく影響していると見られる。ドナルド・トランプの再選による一時的な相場上昇の後、市場は反転し、多くの投資家がスタグフレーションと景気後退のリスクを意識するようになった。バフェットはこうした短期的な熱狂に与せず、市場が割高と判断すれば即座に距離を置く姿勢を一貫して維持してきた。
株式市場において、割安な局面を待ち続ける姿勢はしばしば機会損失と見なされるが、バフェットの行動はその逆を示している。好機到来時に迅速に動ける流動性の重視が、長期的な投資リターンの鍵となることを再確認させる事例である。
地理的分散投資の象徴としての日本選好
バークシャーによる日本商社株の追加取得は、単なる新興市場開拓ではなく、先進国の中でも相対的に割安な市場に資金を振り向ける戦略の一環である。米国の株式市場が過熱感を帯びる中、日本市場は依然としてバリュエーションの面で魅力を保っており、長期資本の受け皿として選ばれた形だ。加えて、日本経済では雇用改善や実質賃金の上昇が進み、消費回復への期待も膨らんでいる。
日銀は段階的な利上げを進めつつも、他の先進国と比較して金利は依然として低位にある。これが企業の資金調達コストを抑え、持続的な成長戦略を支える構造となっている。バフェットが注目した商社5社はいずれも安定した利益体質を有しており、日本の経済基盤を担う存在として位置付けられる。
バークシャーの動きは、ポートフォリオの地理的分散の必要性と、米国以外における価値創出の機会を改めて示している。単一経済への依存を回避し、グローバルに収益源を持つという考え方が、資産運用の長期的安定性を高める上で不可欠であることが浮き彫りとなっている。
Source:The Motley Fool